あの夜のこと【美奈 視点】

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席につき、ビールを一気に流し込んだ志桜里は、さきほど起こった出来事を愚痴り始めた。 ま〜たそんな飲み方して…と諭したが、今日は厄介な客に捕まり、さらにはセクハラまでされたそうで。 志桜里が被害者のはずなのに、上司に(とが)められたことにも納得がいかず、相手が客だから泣き寝入りするしかない、と悔しがっていた。 こういう時、古い考え方をする会社に腹が立つ。 百貨店なんて女性従業員の方が多いのに、立場は弱いのだ。 ただでさえ、うちの店の売れ行きは下降傾向にあるのに、いつまでも以前と同じ体制ではいずれダメになる。 それなのに、頭が固い年寄りたちは変革を嫌う。 上の役員たちを一掃しないと、今の古い体制は変わらないのではないか。 時代遅れも甚だしい。 志桜里のグチに賛同しながら、そんなことを考えていた。 彼女は聞いて欲しいだけなので、会社の体制をどうにかしたい、などとは思っていないだろう。 きっと上司に反論もしないんだろうな、と思う。 そんな風に我慢するからストレスが溜まるのだ。 だからこうやって時々ガス抜きしないといけない。 営業中は笑顔を絶やさず毅然とした態度で振る舞っているが、私と二人になると途端にタガが外れ、積もり積もった不満を爆発させる。 私が年上だからか、必ずお世話する役目になるのだが、志桜里の豹変ぶりが楽しいのでやめられない。 そういうところも含めて、私は志桜里を可愛いがっている。
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