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予期せぬ客
その日も、いつものようにフロアを見回っていたが、紳士服売り場で若そうな男の人が、商品を手にしたり、スタッフを気にしたりしているのに気が付いた。
なんだか動きが怪しい…
他のスタッフは?
ちょうど休憩と重なりでもしたのか、売り場には一人しかおらず、その一人は別の客の接客中だ。
私はその男性に近づき、後ろから声をかける。
「お客様、何かお探しですか?よろしければお出ししますよ」
振り向いた客を見てびっくりする。
篤志?!
「志桜里?!おー!久しぶり!元気してたか?そういえばお前、ここで働いてるって言ってたもんな!」
その男は、約一年前に付き合っていた篤志だった。
美奈曰く、ハズレの元カレである。
予想してなかった嬉しくもない再会に、動揺してしまう。
なんで?と思ったが、ここは百貨店である。
誰が買い物に来てもおかしくはない。
「……お久しぶり、です」
できるだけ表情に出さないよう、客の一人として対応しよう。
「今日は、何をお求めですか?」
「なんだよ。そんな他人みたいな喋り方して。気使わなくていいからいつも通りの口調でいいし」
仲の良い友だちならば、たぶん普通に喋ってる。
でも、この人と仲良いわけではないし、友だち関係を続けるつもりもない。
「でも…、他のお客様とか従業員の目もありますので…」
案の定、篤志は不機嫌な顔をした。
ちょっとヤバいかな…と思っていたら、とんでもないことを言い出した。
「ここでそういう喋り方しかできないんだったらさ、今夜メシでも行こうぜ」
驚き過ぎて、すぐに反応できない。
一体何を言っているの?
喋り方が気に入らないからご飯食べに行こう?
どういう流れでそうなるのか全く意味がわからないし、そもそも、円満に別れたわけでもない元カノを誘うってこと自体がさっぱり理解できない。
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