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たっぷり時間をおいてから、頭を上げる。
「すみません!坂上さん」
「いや、気にするな。で?ホントは彼はなんだって?」
「すみません。初めてでこだわりがないっておっしゃったので、パターンオーダーを案内しようとしたら、既製品を勧められてると思って気分を害されてしまって…」
「ふーん。それならうんと高いやつ勧めれば良かったのに」
こんなところでも売上至上主義なんだ。
自分の担当じゃないのに…
「でも彼、横田の名前知ってたな。知り合い?」
「…はい。むかしの、知人です」
「……もしかして、元カレとか?」
「う……まぁ、…はい。…鋭いですね」
「むかしの知人とか、関係が曖昧過ぎんだろ」
ニヤッと笑って言う坂上さん。
「ずいぶんといい趣味してるんだな」
「あはははは……」
凄く好きで付き合ってたわけではないけど、過去のそんな話を坂上さんにしたくはなくて、曖昧に笑ってやりすごす。
「彼、また来るって言ってたけど?」
「でも、私も毎回ここの売り場にいるわけじゃないですし」
そう話していたら、売り場のスタッフさんがやってきた。
「坂上さん、横田さん、すみません!今タイミング悪く私しか居なくて、お手数おかけしました!横田さん、大丈夫でした?」
「え?うん。大丈夫よ」
「良かった。あの人、今日、結構長くずっと居て、ちょっと気持ち悪かったんですよ!」
「あぁ、動きが怪しいから、万引きかな?て思って近づいたの」
「万引き?いえ、違うんですよ!あの人、前にも来たことあって。その時は凄く愛想が良くて、いろいろ話しかけてこられて」
前にも来た、てことは、本当にスーツを作りたかったの?
悪いことしたかな…
そう思いながら、売り場スタッフの話を聞いていた。
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