予期せぬ客

5/6

549人が本棚に入れています
本棚に追加
/139ページ
たっぷり時間をおいてから、頭を上げる。 「すみません!坂上さん」 「いや、気にするな。で?ホントは彼はなんだって?」 「すみません。初めてでこだわりがないっておっしゃったので、パターンオーダーを案内しようとしたら、既製品を勧められてると思って気分を害されてしまって…」 「ふーん。それならうんと高いやつ勧めれば良かったのに」 こんなところでも売上至上主義なんだ。 自分の担当じゃないのに… 「でも彼、横田の名前知ってたな。知り合い?」 「…はい。むかしの、知人です」 「……もしかして、元カレとか?」 「う……まぁ、…はい。…鋭いですね」 「むかしの知人とか、関係が曖昧過ぎんだろ」 ニヤッと笑って言う坂上さん。 「ずいぶんといい趣味してるんだな」 「あはははは……」 凄く好きで付き合ってたわけではないけど、過去のそんな話を坂上さんにしたくはなくて、曖昧に笑ってやりすごす。 「彼、また来るって言ってたけど?」 「でも、私も毎回ここの売り場にいるわけじゃないですし」 そう話していたら、売り場のスタッフさんがやってきた。 「坂上さん、横田さん、すみません!今タイミング悪く私しか居なくて、お手数おかけしました!横田さん、大丈夫でした?」 「え?うん。大丈夫よ」 「良かった。あの人、今日、結構長くずっと居て、ちょっと気持ち悪かったんですよ!」 「あぁ、動きが怪しいから、万引きかな?て思って近づいたの」 「万引き?いえ、違うんですよ!あの人、前にも来たことあって。その時は凄く愛想が良くて、いろいろ話しかけてこられて」 前にも来た、てことは、本当にスーツを作りたかったの? 悪いことしたかな… そう思いながら、売り場スタッフの話を聞いていた。
/139ページ

最初のコメントを投稿しよう!

549人が本棚に入れています
本棚に追加