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-今度来た時はちゃんとしろよ!-
そう言って去った篤志が、いつ来るのだろう、と怯えていたが、それから何事もなく二週間が過ぎた。
もしかしたら、もう来ないのでは?と少し安心しかけていた。
そんな時に突然、紳士服売り場より連絡があった。
慌てて売り場へ向かう。
そこには、余裕の表情で私を待つ篤志がいた。
嫌な思いがよみがえり、逃げ出したくなるのをなんとか堪え、篤志に近づいた。
あくまでもお客様の一人として応対しよう。
「いらっしゃいませ」
「おう!前にも言ったけど、変にかしこまった言い方やめろよ!」
やはり威圧的な態度は変わらずだ。
「わ、わか…った」
気を取り直して話しかける。
「今日はスーツを仕立てに来たんだよね?まずはカウンセリングするから、こちらへどうぞ」
「カウンセリング?」
「オーダーメイドにもいろいろあるから、まずはその説明と、それから素材や色なんかの希望を聞いたりするの」
できるだけ、彼を刺激しないよう、様子を窺いながら説明する。
「なんだ、採寸とかするんじゃねーの?」
「するけど、その、種類を決めないと、採寸の仕方も違ってくるから」
「ふーん」
奥に案内しているのになぜか動かない篤志に、仕方なくその場で話を進める。
おそらく、篤志は初めてスーツを作るんだろうから、オーダーの種類から説明する。
「なんだよ、じゃあパターンオーダーとかって、既製品みたいなもんじゃん」
「ああ、まあ、デザインは決まってるから。でもイメージしやすいし、仕上がりも早いから…」
「それってあんまりオーダーメイドっぽくねーな」
笑って言う篤志を見て、今日は機嫌がいいのかな、と少し安堵する。
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