モヤる心

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モヤる心

それからというもの、外回りをしている坂上さんは、終業までには事務所へ戻ってきて、そしてほぼ毎日私を家まで送ってくれている。 申し訳なくて、夕飯でもご馳走しようと時々ご飯に誘ったりもした。 快く応じてくれるのだが、いつも坂上さんが会計をしてしまい、奢られてはくれなかった。 それが気になり、ご飯に誘うのも躊躇(ためら)うようになった。 だからといって、家で夕飯を作ってあげる、という選択肢は、坂上さんを家にあげることになるので、どうしても踏み切れずにいた。 そんな生活がしばらく続いたある日の帰りのことだった。 店を出た時に、篤志に似たような人影を見た気がした。 少し気になりながらも、坂上さんと一緒に自宅へ向かった。 そして、駅から自宅マンションまでの道のりで、誰かが後ろを歩いていることに気づいた。 それは坂上さんも同じだったようで、小声で話しかけてきた。 「横田、気づいてる?たぶん、つけられてる」 やっぱり! もしかして店から? 店を出た時に見た人影は篤志だったのだろうか。 ……怖い。 「このままマンションの中まで入るぞ」 坂上さんに小声で言われ、マンションのエントランス内に入った。 すると、後ろの人影は物陰に隠れて様子を伺っているようだった。 どうしよう。 やっぱりつけられてたんだ。 恐怖で顔が青ざめる。 「横田、お前の部屋まで入ろう。あの隠れてるヤツがいなくなるまで、安心できないだろ。それまで一緒にいるよ」 一緒に居てくれることはありがたいけれど… この場合、仕方ないだろう。 坂上さんは親切で言っているのであって、変に構える必要はないのだ。 篤志かどうかはわからないが、誰かに家までつけてこられたことが恐怖を掻き立てる。
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