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なかなか頭を上げない篤志に声をかける。
「篤志。わかったから、もう顔あげて」
顔を上げたかと思えば、真剣な眼差しで、
「怖がらせて悪かった。でも、志桜里のことは本当に好きだったんだ」
と伝えてきた。
今の篤志を見ていたら、出会った頃を思い出す。
それから、篤志はむかしの話をはじめた。
「初めて会った時、志桜里の笑顔から目が離せなくてさ。一目惚れだったんだ」
あの合コンは、そんなに楽しいわけでもなかったし、愛想笑いしかしてないような気がするけどな…なんて思いつつ、篤志の話に耳を傾ける。
「あの時、志桜里がオレに気がないことはわかってたんだ。でも、どうしても志桜里の笑った顔をオレに向けて欲しくて、志桜里の優しさに付け込んで、みんなを味方にしてちょっと強引に付き合った」
確かに、まわりから勧められて断り切れなかった。
それは流されてしまった私も悪い。
「でも、なかなか笑ってくれなくて、焦って、それでイラついて志桜里に当たったりして。
そんなことしたって好かれるわけねーのに。オレが怖がらせてるってわかってた。でも、どうしても手離せなかった。別れたくなかったんだ」
ちょっと苦しそうな顔で話す篤志を、この前とは別人だな、と冷静に見ていた。
と同時に、そこまで好かれる理由もわからないけれど、好意を持ってくれることはありがたいが、それには応えられなくて申し訳ないと思った。
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