認めたくない恋のはじまり

ミステリーショッパー

篤志とのことが解決した翌日、部長に呼び出された。

「横田、今から岩元(いわもと)連れて本郷支店の視察に行ってくれ。本社の人間だと気づかれないように私服で」

－本社の人間だと気づかれないように私服で－
ということは…

「覆面調査ですか？」
「ああ。だけど、まだそこまで深刻な問題にはなってないから、様子をみるだけでいい。二階から五階までの各売り場を回って、気になる点だけ報告に上げてくれ」
「二階から五階ですね？この時間に出たら、夕方までかかると思いますが」
「構わん。今日はそっち優先で」
「わかりました」

稀(まれ)にこういう仕事をふられる。
支店で対応にクレームが入ったりした時などに、本社の人間が抜き打ちでチェックに行くのだ。

ただ依頼される私も試されていると思っている。
なぜなら、クレームのあった売り場を教えられないからだ。
先に情報を伝えると、変な先入観が入ってしまうからかもしれないが。

もし私たちが気づけない場合は、外部のコンサルなどに依頼するのだろう。
というか、そちらが一般的ではあると思うけど、そうなるとやはり費用がかかるので、まずは社内で、ということだろう。

なので、もしかしたら自分たちも、知らないうちに抜き打ちチェックされている可能性はある。

それをわかったうえで、私たちに調査させるということは、これも社員教育の一環なのかな、と。
人のふり見て我がふり直せ、みたいな。