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早苗ちゃんがどうするかわからないが、講習の話もしてみよう。
「で、そういうことがあったから、消防署に救命講習を受けに行ったの」
「救命講習?」
「そう。心肺蘇生の仕方とか、一般的によく起こるケガとかの手当ての仕方を教えてくれるの」
「へぇ~!そうなんですね!え、でも、それって休みの日にわざわざ受けに行った、てことですか?」
「うん。なんかWEBで講習の動画も見れるみたいなんだけど、体験してみないとわからないなって思って、受けに行ったよ」
「志桜里さん凄いですね!!尊敬します!」
羨望の眼差しで見られ、少し戸惑う。
確かに、目の前でお客様が辛そうにしてるのに、なんにもできなかったのが悔しいと思ったことに偽りはない。
だけど、目の前で倒れているお客様を見た時、むかし母が倒れた時の光景と重なって見えてしまい、怖くて思考もストップして、全く動けなかった情けない自分をどうにか変えたくて受講した、というのが本当の理由だ。
「その講習のこと、詳しく教えてもらっていいですか?」
「もちろん!」
この子、ホントいい子だな、と嬉しくなる。
同時に昨年の講習を思い出す。
あの時は、篤志と別れてまだ間もない頃で、男の人に近寄ってこられることが少し怖かった。
講習の指導担当者も男性だったので、実技を教わる時が不安だった。
だけど、私の不安が伝わってしまったのか、その男性はできるだけ私に触れないように距離を取って指導してくれた。
意図せず触れてしまった時も気遣う言葉をくれて、その優しい口調と彼の纏う雰囲気に、不思議と恐怖が和らぎ、集中して受講できたのだ。
人を助ける仕事をしているから、きっと優しい人なんだろうな、なんて思った。
そのおかげで、少しずつ男の人に対する恐怖もやわらいだ。
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