記憶のない朝

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「お水!ご馳走さまでした!それじゃ」 そう言ってリビングを出る。 一応、ミネラルウォーターを貰ったお礼だけは言っておいてあげる。 「え、ちょっと待ってよ!」 呼び止められたけど、足は止めない。 「志桜里(しおり)ちゃんっ」 パンプスを履いた時、うしろから腕を取られた。 「気安く名前呼ばないで頂けませんか」 「…ごめん」 謝りはするけど、手は離してくれない。 「手離してください!」 「ちょっと落ち着いて」 「私は落ち着いてます!」 取り付く島もない私に、呟くように彼が言う。 「せっかく仲良くなれたのに……」 仲良く? どこが?! 体だけじゃん!とカチンときた。 「あなたは仲良くなったつもりかもしれませんが、ごめんなさい。私、あなたの名前も覚えてないので、なかったことにしてください!」 「え!なかったことに?」 「帰ります。お邪魔しました!」 「ちょ、ちょっと待ってって!」 彼の焦った顔が見えたが、気にせず腕を振りほどき、玄関ドアに手をのばした。 その時、うしろから彼に抱き締められる。 「なっ…」 「ごめんて。まだ帰んないで欲しいんだけど」 耳元で甘えるように言われる。 「っ………」 抱き締められたことと、脳に直接響くような声に、さきほどのぬくもりを思い出して、固まってしまう。 「もう少し、一緒にいたい」 そう言われ、耳たぶにキスをされる。 それに反応してしまう私の体。 ああ、ダメだって! 拒絶しなきゃ……
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