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「機関員だって消防士には違いないし、それだって立派な役目だろ」
「だけど、地味だし誰にも感謝されないじゃないっすかー」
拗ねたように田上が言っているが、確かに緊急車両の運転手って、苦労がなかなか理解されにくいところではある。
現場や病院までの最短ルートを即座に導き出さなきゃならないし、救急車の場合は、振動を与えないように滑らかな運転技術が求められるので、神経を使うのだ。
田上は機関員としての経験がまだ浅いため、管轄内の道路の状況を把握しきれていないのか、休日のプライベートの時間を割いて、凹凸のある個所など、道路の状態をチェックして回っているのを、俺は知っている。
チャラそうに見えるが、意外と真面目なヤツなのだ。
田上の話はさておき、最近はどうしても彼女のことばかり考えてしまう。
もういい加減、不毛な恋は諦めなければ、とは思うものの……
俺は何をして彼女を怒らせてしまったのか、もう一度会ってちゃんと話したかった。
居酒屋での話の内容から、どうやら百貨店に勤務しているらしいことがわかった。でも、どの店のどの売り場にいるかなんてわからず、手あたり次第探して歩いた。
闇雲に探したところで、当然会えるはずもなく。
誰か従業員に聞けばわかるかもしれないと思ったが、苗字を教えてもらってないので聞きようがなかった。
それでもじっとしていられず、休みの日には、気が付けば足が百貨店に向いていた。
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