気になるあの娘【進藤 視点】

5/9
前へ
/139ページ
次へ
* 俺たちが初めて会ったのは、飲み屋で会った夜よりずいぶん前であることを、彼女はきっと知らない。 その日は、希望者を対象に、一般救命講習を行う日だった。 緊急時の心肺蘇生や人口呼吸、AEDの使い方の指導、その他一般的な応急処置法など、実技を交えた三時間ほどの講習。 勤務先の規則で受講する人、スポーツの指導者、何かの責任者だったり学校の先生、はたまた普通の主婦だったり、受講する年齢層や理由も様々。 その場面に直面した時、応急処置法を知っているのと知らないのとでは、生存確率にも大きく影響してくる。 一分一秒を争うため、少しでも多くの一般市民が、その知識を身につけてくれることに越したことはない。 俺はその日、ピンチヒッターで講習の指導を担当することになった。 そこに彼女が受講しにやってきたのだ。 彼女は接客業をしていると言っていた。 この夏、熱中症で気分が悪くなった客がいたらしいのだが、何の対処法も知らずあたふたするだけで、救急車を呼ぶという判断もすぐにできず、何もできずに悔しかった、と。 今後、また客に万が一何かあった時の為に受講しに来た、と柔らかく笑った。 誰に言われたわけでもないのに、責任感が強いんだな、と感心した。 なので、救急車を呼んでいいか迷った時は、相談できる窓口があるよ、と教えてあげたら、すぐにメモっていた。 真面目な子だなと好感が持てた。
/139ページ

最初のコメントを投稿しよう!

630人が本棚に入れています
本棚に追加