2・旅立ち

6/6

20人が本棚に入れています
本棚に追加
/32ページ
母は花屋を営みながら、慈善活動をしていた。父はホテルのオーナーを務めていて、そしてその秘書がウィルソン卿だった。 父が失踪すると、オーナーも自然と彼に移された。ウィルソン卿によると、失踪した日、父がパーティの帰りに彼に屋敷の所有権と鍵を渡し、 「我々はこれから危険な仕事に出かける、もし我々が戻ってきてこなかったら、屋敷を頼む」 と言い放ち、ウィルソン卿が問いただす暇もなく車で去っていったっきり、戻ってきてないと証言していた。2人が対談しているところをほかの客も多数目撃していた。 警察は誘拐事件だと判断し、最初からみんなが思うようにウィルソン卿を疑う。 屋敷という確かな動機はあったが、ただ、十分な資産はあるのに、1軒の屋敷が欲しいがためだけにわざわざ彼らを誘拐するまでする必要はどこにあるのか、検討もつかない。 そしてウィルソン卿も、そんな愚かなことをするまでの人でもない人は確かだ。何10軒の屋敷と何千万ものの資金もある人が、どうしてするのか。 警察は感情方面の動機を考えてみるが、お金持ち同士に、なにも争いになれるものもないし、父と彼は昔からの旧友で、母とも仲良かった。そして自分たちにも親切してくれていた。 表だけでは、なにも動機は見えない。だからこそ怪しかった。街の誰かも…彼を疑った。ただそこまでして…両親を消す理由は見当たらなかったから…疑っても意味がなかったの…… 資料を読んでいるうちにブレンはだんだんと意識が遠くなり、そして腕に頭をコツンと乗せたまま寝てしまった。 ローレは小さくため息をして、そして起き上がった。ベットから枕を1個、それからトランクからジャケットを取って、ブレンをきちんと寝かせた。 ようやく彼女も資料を手に取る。 円形のレッドカーペットに立ったまま資料にざっと目を通した。少し思い詰めた顔をした後、彼女は資料の紙の角を揃え、それらを取り出した時のファイルに戻す。 そして玄関近くの壁に行き、眩しいぐらいに明るく照らしていたシャンデリアの光を消した。
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加