3・帰還

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意気投合としたこの姉弟を見て、ウィルソン卿は改めて感動した。 彼らの態度が変わっていても、心は変わっていない。 「驚くことにこの間、君らの両親の生存情報を得たんだ」 ウィルソン卿は両サイドの扉を開きながら言った。 ブレンの満面の驚きとは逆に、ローレはあったかも知ってたかの様に平然な顔をして他人事な態度を取っている。 どこか弟に似ていた。 「そう…目撃情報ですか?」 「よくわかったな!さすがアイロスの娘だよ、実はそうなんだ」 そう肝心するとウィルソン卿はくるっと体を回してホールに入り、二人は後を続いた。 中は入ってすぐ階段ホールとなっていて、左右対称に作られた木製の両側の階段に、真ん中にはブラウン・クルミ材で作られたホールクロックが置かれていた。 頭上には見飽きる程典型的な形のシャンデリアが光っている。照明だけは古びていた。天井で眩く光ってはいるが、それでもホール全体は薄暗い。 「そんで、どこで見かけたんだ」 家に戻れた喜びを心の中に隠し、まるで煙草(たばこ)を吸うかのようにいつの間に買ってあった飴を取り出して口に咥える。 そして持ってきたトランクをホールクロックの側に置いた。 姉はウィルソン卿の情報に夢中で注意することを忘れてしまっていた。 「それがな、不思議なことにフランスなんだよ!」 どこから来たか分からない謎の自信に満ち溢れた声だった。 「フランスだと?」 メンチを切らす不良かと言わんばかりの話し方で姉は我に帰る。 「落ち着きなさい」 一瞬にして威風凛然を見せた姉は、ウィルソン卿に目を移す。 「フランスのどこで何を、どんな様子であったか分かりますか?」 落ち着いた態度とは裏腹に、目からは焦りが見えていた。 「パリだよ、帽子を被りサングラスをしていたが、髪の色は一致していたし、日本語で話しているのが聞こえたから間違いないよ、写真もあるんだ」 父は日本語の勉強をしたいがために母とは並べく日本語で会話していた。 「どうしてそれが日本語だとお分かりで?」 姉は丁寧に聞く。 「その人日本語ができるらしいんだよ、手紙受け取って後から気づいたんだが、どうして10年も前の君らの両親の事を覚えているかは不思議なんだ。変とは思わないか?」 どうやら情報は電報で知らされていたらしい。 「そいつが俺らの両親を誘拐した可能性はないか?」 ブレンは姉から注意されることも無くを咥え続けていた。 「そうか、だから一目だけでわかるのか!」 二人揃って探偵ごっこをしているが、大抵この場合は外れている。
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