3・帰還

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彼らはホールに戻り、クレアは置きっぱなしだったトランクに気づいた。 「まあこれは申し上げございません!午前中から先程まで裏庭で花のお手入れをしていたせいで、今すぐお運び致しますわ」 そういうとクレアは止められる隙間も与えずに素早くトランクを持ち出して軽々と階段へと登っていった。 ウィルソン卿は階段を登る彼女を見上げながら本題を持ち出す。 「ご飯も食べた事だし、君たちの両親の失踪事件の事を話すとしょうか」 ブレンはこの言葉を待っていた。 そしてウィルソン卿は彼らをアイロスの書斎へと連れて行く。書斎はすぐ右側の最初の部屋にある。 小さい頃は父に立ち入り禁止されていたので、彼らは生まれて初めて父親の書斎に入った。 入って左側には黒いタワーシェルフがあって、6個の棚には全て本がずっしりと詰まっていた。右側には年代を感じさせられる格調高いライティングデスクがあり、真ん中には書斎机があって、その手前には二脚のアンティークチェアが置かれている。そして机の後にはデザインが同じでもサイズが一回り大きなチェアと装飾格子付きの大きな出窓がある。カーテンは開けられていたため、暗い部屋には満面と陽光が射し込んでいた。 ウィルソン卿は折角の日差しをカーテンで遮り、そして電気をつける。今度はようやくシャンデリアではなかった。3個の黒いペンダントライトが同時に光ると、彼らは其々自分たちの座るべき位置に着席した。 「まず、」 ウィルソン卿は最初に両親の失踪事件について語り始めた。 「君たちの両親は当時、私のパーティーに出席していた。と言っても、ただの慈善家の情報交換会だけど、その日の彼らは妙に落ち着かなくてね、なにかに怯えているようだったんだ。そこに怪しい人物は誰もいなかったのに」 ウィルソン卿はひと段落区切り、ため息をつく。 「君たちは知らないと思うが、失踪する二ヶ月まえから君たちの父がすでに脅迫の文を受けていたんだよ。私は綾香さんに相談されていたから、内容はも覚えているよ、確か、「金を返せ、父が死んだからって事が無くなったと思うな、返さなければ奥さんの命はない」と書いてあったよ。実はアイロスの父は前に株で失敗して、彼に投資していた複数の会社がそれで倒産したんだ」 ブレンは珍しく長話に眠くなっていない。 「なら、それらの会社が怪しいんじゃないか?」 「一目見ればわかる事を」 馬鹿な弟に不満だったのか、ローレはすぐに反撃する。 「ただ、その脅迫状と失踪と繋がるのは確かだ」 両親の失踪は、もしかしたらノルベルトの変死事件が関係しているかもしれないと察したブレンは再び探偵ぶった。 「もし俺らの親がその所為(せい)で失踪したんなら、あの変死事件も同じ犯人の可能性あるぜ」 「なら振り出しからやり直さなきゃいけないな!」 59歳の叔父さんと16歳の少年が盛り上がって探偵ごっこしているのに、姉は呆れた目で見ていた。 唯この場合の推理は当たっている。
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