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4・綾香
「Guck mal(ご覧あれ)!」
ウィルソン卿はまるで自分の庭であるかのように家の本来の主に自慢した。しかし実際、名義上では彼の庭である。
反対側の庭は母お気に入りの大きな薔薇庭園であった。赤、ピンク、白、黄色の四色で其々綺麗に四つの大きな花壇に分かれで別々に植えられている。どこからかKohlmeise(シジュウカラ)が可愛らしく鳴いている。
彼らはそれに合うように用意されたであろう薔薇の模様が刻まれた白いガーデンファニチェアに座った。クレアが3人の後に続いてトレーンを押し運んできた。その上には皿に載ったシュペクラティウス(ジンジャービスケット)と、フォークで丁寧に波模様が描かれた3人分のドナウヴェレ(チョコレートケーキ)とコップとティーポットのセットがあった。
「全くこの子達がここに来たのは初めてじゃないわよ、そんな大袈裟に自慢なさらなくても」
クレアはトレーンの上にあったものをテーブルの上に置きながら言う。
「それで、」
ローレはいつもの体勢を崩さずに尋ねる。
「私たちの両親を見かけた人について、なぜ私たちの両親だと確信がついたのです?日本語を話していたのはわかったが、だからそれがそうだとも言い切れないのではないですか?」
ウィルソン卿は「その質問を待っていたよ」とも言わんばかりの顔をして、ティーポットから紅茶をみんなのコップに注いぐ。
「そうそうそれがね、君たちの母の目を見て確信したんだよ。サングラスを拭いてた時に見えたらしいがね、ほら、そう言われるとわかるだろ?」
ローレもブレンも「なるほど」とゆう顔で反応した。
ブレンもよく母が見つからない時は目を見て探していた。母は虹彩異色症、いわゆるオッドアイである為に、目は彼女の特徴でもあった。ブレンはいつもそんな特別な母がいることを誇らしげに思っている。
「綾香様は本当に素敵な方でしたわ」
クレアもいつの間にかチェアに座っていた。
「本当に素晴らしい女性ですよ!」
ウィルソン卿はまたしても、まるで自分の嫁であるかのように肝心する。でも確かに、母綾香は裏表がなく、誰からも人気だった。子供たちを厳しく叱る時があっても、母としての義務を全うしていた。まさかあの悪党とも言えるべき家族から生まれた一人娘とは考えれないほど素晴らしい女性であった。
「母はクレアさんに相談しなかった?脅迫を受けたことについて」
ローレはそれらを無視して話を変えた。
「まあそんな恐ろしいことがあったなんて私聞いておりませんでしたわ!奥様が早く教えて下されば私がお力になれましたのに」
「私に相談したのですよ。彼女、クレアさんに心配掛けたくないと言ってね」
ウィルソン卿は自慢げに話に割って入る。
「だとしても言ってくださらないと」
ブレンは過去の後悔に聞き呆れていた。
「もう過ぎたことだろ、それよりも、メイドらの話聞くとか言うけど、他のメイドはどこだ」
クレアは周りを見渡す。
「きっと別の所でお掃除しておりますわ、ちょっと、あの花壇は今お手入れしたばかりですわ!待って、エリシア!」
彼女は席を立ち、ピンク色の花壇に手を伸ばそうといるメイドの所へ駆け寄った。
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