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1番奥の部屋はみな1番広く作られていることともあり、ブレンにとってここは屋敷の中で1番居心地良い空間だった。
彼ら合わせて8人が余裕で座れるほど大きな長テーブルがあり、その上には長々とガーネット色のレトロフラワーテーブルクロスが敷いてあり、更にそのテーブルクロスの上には果物の入ったチューテ(果物やキャンディーをいれる円錐状の三角袋)2袋と大きな3本立てのキャンドルスタンドが3つ置かれていた。
窓は赤いカーテンによって隠されていた。頭上には例の如くシャンデリアが3つ、そして部屋の左端には暖炉があり、火がバチバチと踊っている。
ウィルソン卿を中心に弟と姉は対面に座り、クレアはローレの横に、約2分ほどしてサラとルーシが入ってきて、サラがブレンの隣に座り、ルーシが更にサラと共に座った。
30分ほど皆で日本の話をしていると、レイラが夕食を運んできて来た。
「何かいい話を聞き逃したかしら?」
夕食の皿を1人ずつ配り終えたあと、彼女はエプロンを外してクレアの隣に座った。
「さっきまでは、「スシ」…と言うんだっけ?それの話をしてたよ」
ウィルソン卿が食器を持ち始めたことでようやく夕食が始まる。
「ああ、それなら知ってますわ、生のお魚さんがご飯の上に乗っている食べ物でしょ?」
「薄く切ったやつね、美味しいらしいわよ」
「でもスシって海鮮だけなの?」
「それが海鮮だけじゃないのよ、色んなものがご飯の上に乗ってるって!奥様もその話をした事ありますから覚えてますの」
メイドたちは寿司の話で盛り上がるがあまりお客様の存在を忘れてしまっていた。
「母さんと言えば…」
ブレンはそれを見てられずに親の話に無理やり持っていった。
「あの花屋どうなったんだ?」
「そう言えば失踪する1ヶ月前に閉店したらしいわ」
サラはソーセージが刺さったフォークを手に持ちながら言う。
「そうなんですよ、しかも2日前に私達を全員解雇しちゃって、ウィルソンさんですよ?私たちを再びここへ呼び戻したの」
「もうここへ戻れないかと思ってましたわ」
サラとクレアから驚きの数々の証言が出たが、これらの話は新聞にや記事に乗っていなかった。
「三日前に私のところへ参加を申し出たから、覚悟していたのかもしれないね」
まるで消されると予知でも出来てたような母の素振りに、娘は考え込む。
このメイドたちの中に裏切り者がいるとしたら誰か?
その人が犯人か、それともあの家族か、それとも他に誰かいるのか?
ブレンもそんな話に興味はあったが、どこからか危険な気配を感じて話を逸らす。
「誰か飲み物くれんか?」
「ああ!そうでしたわ、ここにあります!他の方は何か飲み物入ります?」
「あっ、私はビア(ビール)で」
「全くお昼に飲んだばかりですのに」
「私オランジェンザフト(オレンジジュース)がいいわ!」
「わかったわよサラ、お嬢様とおぼっちゃまは?」
「ヨハネスベアーザフト(スグリジュース)。彼はシュペッツィで」
「ホント昔と変わらないわね!」
自分の性格を利用して上手く話を逸らせたのをほっとしていたと同時に、妙な胸騒ぎを心の底から感じ取っていた。
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