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夕食が終わり、彼らはそれぞれ大人しく寝る支度を済まして自分の部屋にもどった。
「ブレン、もう寝る時間だ」
ローレは傍で眩しく光ってあったベッドサイドランプを消した。
ただブレンは先程から心の底に潜んでいた不安と恐怖心の胸騒ぎのせいでとても眠りたい気持ちになれていない。それでも彼は自分は男であると見せたいが為に強ばっている。
「まだ眠くねぇ」
そう言ってライティングデスクの隣にあった花柄のカーテンを開ける。
白い光が月明かりとともにブレンの肌からローレの背中までと伸びていった。
ブレンは格好をつけて座り込み、外を見ながら飴を口の中に転がす。
ただいつもとは違って、彼は妙な胸騒ぎと戦っていた。
幾ら格好をつけていても、彼の気持ちは顔に出やすい人である。
姉はすぐそれに気づいた。
彼は両親のことを心配している。
言葉に表すことは決してないが、とても両親の生死に焦りを感じてもいるし、姉とは違うが、愛してもいる。自分を愛してくれていた両親がもしかしたら居ないかも知れないという幼少期からの恐怖が蘇っているのだ。
姉ももちろんそれを恐れていたが、弟は小さい頃から姉よりもその胸騒ぎに悩まされていた。
彼女はいつも「きっと大丈夫、戻ってくる、私たちがこうして生きているから」と彼に慰めていた。
姉はそんな弟を慰めようとした。
ただ弟は自分は弱く見られたくない所があるということも存じしている。その為に最初は声を掛けようかと悩んでいたが、やはり放っておけなかった。
「ブレン」
姉はいかにも心配そうな目だった。
とても柔らかな姉の優しい声に、ブレンは驚いて瞬時に振り向いた。
驚きのあまりに飴を床に落としてしまい、更にはそれにすら気づいてない。
「もう私たちを愛する親は居ないのかも知れない。だが私はあなたの姉であり、あなたの親でもあるのだから」
その言葉にブレンははっとした。
そう、彼女は遠回しに「でも私もあなたを愛しているから」と言っていたのだった。
夢の中にでもいるのかという顔つきで床から思考停止したまま姉を見上げた。
「姉さん…」
そしてベッドへと近づき、布団にゆっくりと片膝をつけた。彼は目の前の姉が本物か確かめるために手を伸ばして姉の頬に触れた。
―現実だ。
時は再び止まっていた。ブレンはしばらく動けられずにいた。
姉はそんな弟を見て急にどうしたんだという目で見つめる。
その時のブレンは理性を振り絞って姉にキスしたいという衝動を極力抑えようとしていた。
「手が冷たいから速く布団に入りなさい」
いつもの姉でようやくブレンは失いかけてた理性を引き戻した。
「ああ」
何事もなかったかのように布団に潜り込む。
「全く布団はちゃんと掛けなさい」
「んなぁわかってる…」
と言ってもまだ理性と感性の境界で朦朧としていた。
「寝るよ」
ブレンはこんなんじゃあ寝れねぇよと目で姉に訴えかける。実際色んな意味で寝れそうになれなかったであろう。
姉は軽くイライラしながらもため息をつく。
「抱いてもいいから早く寝なさい」
子供の甘やかしを仕方なく許す親のような口調で妥協した。
「んっ。おやすみ」
そう言って姉を抱き寄せ、ようやく満足して眠りに落ちた。
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