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5・裏切者
「キャァァァァァア!」
鼓膜を貫くほど甲高い叫び声と、
「バキン!」
とゆう食器が割れた音で屋敷にいた全員の目が一気に覚める。
「ん…何事?」
姉は目を擦りながら弟の腕の中から離れた。
僅かに暖かな太陽の光が昨日の夜まで真っ暗だった部屋全体を眩しく照らしている。空も青く、家から出ない限りただの晴れ晴れとした夏のようないい天気に見えるが、外を出ると一向に冬を感じさせれるだろう。
「朝からうるせぇな、虫でもいたのかよ」
「とにかく見に行くぞ」
姉は無理やり弟をベッドから引っ張り出た。
「何が起きた?ああ、おはよう」
部屋から出ると彼らと同時に両親の部屋から出てきた寝巻き姿のウィルソン卿が部屋のドアの前に立っている。
「んな事知るかよ」
ブレンの寝起きの機嫌は相変わらず最悪だった。
「下の階から叫び声がしたが」
そんなことを言っていると、下の階からさらにクレアが喚く声が家の中で反響して彼らの耳に届いた。
「大変よ!あなた達!ルーシが!ルーシが何者かに殺されてるわ!」
「えぇ?!」
「えっ…」
「はぁ?!」
同じタイミングであまりに唐突すぎて信じられない出来事を一斉に驚いて現実を疑い、そのまま上の階の3人が揃って直ぐに階段を下り廊下へ向かうと、手で口を塞ぎ倒れ込んでいるサラがシャワー室のドアの前に座り込んでいる。
「ルーシが…!」
と泣きそうな震えた声で動揺して、人差し指で中の方を指している。
3人が中に覗き込むと、そこにはお風呂にゆっくりと浸かっていたルーシがいた。
水面には薔薇の花弁が散っている。遠くから見たらただお風呂に浸かっていたらそのまま朝まで寝てしまったように見える。
だが彼女は二度と覚めることはない。
昨日の胸騒ぎが現実となった。
暫く3人とも硬直していたが、何か危機感を覚えたローレが急いで受話器を取ったばかりだったクレアの所へ走った。
「待ってクレアさん、私が通報する」
「お嬢様?でも…」
「いいから貸して」
このままではマスコミに存在がバレてしまうことを恐れて、彼女は自身の巧みな演技力のお陰で警視庁の人たちだけが来た。
「2人とも無事か?!ああ、ちゃんと生きてるな。よかった」
20代前半のように見える若そうな警部が彼の仲間を連れて入って来る。
「俺らはいいんだ。それよりもメイドが1人召されてんだよ」
ブレンはそんなことを口にしながらもさっきまで殺人を目の当たりにしたとは思えないほど何事も無かったかのように煙草を咥えていつも通りの態度で居た。
「もちろん承知した上で来ています」
ドアの開く音を聞きつけたウィルソン卿が階段の端からひょこっと体を出す。
「ああ、警察やっと来た。ちょっと、とても見てられない悲惨なことがあってね」
「ええ、分かってますよHerr(男性への呼び名)ウィルソン。どうも、ルイスです」
彼は帽子を取って挨拶をする。
ルイス警部はその名前の通り、名高い戦士として犯罪という戦場で素晴らしい功績を築き上げてきた上、ザクセン州では凄腕警部として有名である。
「名は伺っていますよ、会えて光栄です。どうぞ、お部屋はこちらになります」
ホテルのオーナーである印象が抜けられないからなのか、皆彼が言うとどうしてもお客様をルームに案内するようにしか聞こえない。
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