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二度目の朝食までまだ時間があったので、黒天使2人は気晴らしに外に出かける事にした。
鐘が鳴り響く旧市街を通り、エルベ川の周りを散策する。
見上げればアルブレヒト城とその隣りにあるマイセン大聖堂、その左横の博物館が視界に映る。空は青く広き渡っていて、太陽は暖かくその裏に密かに殺人事件があったことを包み隠してくれている。
ブレンは突然関係もない普通のメイドが消されることにまだ不可解だった。
今更後味悪く感じたからか、飴を咥えていない。
「何であいつが殺されなきゃならねぇんだ」
「彼女こそ母が言っていた“裏切者”でしょう。でも、何故彼女が…」
用心深く後ろに引きずられてゆく地面を見つめながら言う。
「そりゃ、あの髭爺さんにバレたからだろ」
「そうだとしても、どうして今だ?もし消すならいつだって出来たことではないか」
銀杏の様に黄蘗色に輝くその厳格で魅力的な瞳をブレンに向ける。
ブレンは暫く黙っていたが、やがて口を開いた。
「逆らったらこうなるぜって俺らに見せしめてる?いや、なんか違うな…」
相変わらずだなとローレは呆れて「はぁ…」とため息をついた。
疑問を交わしながら2人は息ぴったりと歩幅を揃えてエルベ川に架かったアルトシュタット橋を渡り、旧マルクト広場に戻ってまた旧市街を散歩していると、ルイス警視とその部下がラピスラズリの色の壁をした可愛いらしい屋敷の前でドアをノックしていた。
「こっちよ!」
ローレを不思議がる弟を瞬時に近くの屋敷の壁へ急いで引っ張る。
そして視線を戻すと、家の中から陽気そうな金髪にエメラルドのような目した青年が出てきて、上機嫌な態度で警察達にフランス訛りな口調で挨拶する。
「これはルイス警部!Gute Laune!(御機嫌よう)お会いできて光栄です。こんな俺に何か御用でしょうか?」
警部はそんな男の意気揚々さを無視して尋問を始めた。
「おはようございますHerrホワイト。いきなりですが、今朝の七時頃に、Frauシャインが絞殺された遺体として発見されました」
「ええっ?!嘘だろぉ?!」
その驚きの声は響いた。マイセンに居る全ての人々が聞こえいるじゃないかと思えたほどに。
「貴方に悪戯をしに来た訳ではありません。我々の調査によると、貴方はFrauシャインの恋人でしたね?」
「まさか俺が犯人のわけないだろ?!頼みますよ警部さん、俺は昨日夜中ずっと寝ていたよぉ!此処から一歩でも出るもんなら気づく人いるに違いありません!」
マイクを取り付けた喉から出るその声は実に騒がしく角の側で盗み聞きをしていた2人は反射的に耳を軽く閉じさせる。
「落ち着いてくださいHerrホワイト。我々は貴方からFrauシャインの事を尋ねたいだけですから」
そう聞くとホワイトは一息ついてようやくマイクを外した。
「素敵な女性でしたよ。犯人が彼女を殺す理由があるなんて考えられません!誰がから恨みを買ってる話とかも聞いたことがないし…」
「では、最後に会った時、何か様子が変わっていたり、態度に違いがあったりしたことがありましたか?本当に些細な事でもいいんです」
ホワイトは警部の勲章を凝視しながら過去を辿っていった。
やがて、
「流石に嫉妬なだけでしょうけど、これはかなり前からですが…」
少し言葉を溜めつつ、
「あの屋敷の一時的な管理者の…ウィルソン卿と浮気をしているのではないかと、思いまして…考えすぎだといいですけど」
「ほら、尻尾が出て来たぜ」
こっそり1人でに自分の中で推理ゲームを進めているブレンはもう既にウィルソン卿を突きつけたくてソワソワしていた。
「待て。動機がわかったとしても、何故消すのが今でなければいけないかの疑問はまだ残ったままだ」
ローレがブレーキをかけなかったら、いや、もしローレが居なかったら、彼はどれ程危険な事を犯していたのか。
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