20人が本棚に入れています
本棚に追加
/32ページ
「そうですか…貴重な情報を有難うございます。また何か他に思い当たることがございましたら、いつでも電話してください。これで失礼します」
そう言って警察達は去った。
「着いてくぞ」
ブレンはまさにその一言を待っていた。
自分は昔テレビでもよく見かけた様な殺人事件のミステリーの中に居ることを自覚した上では、気持ちを落ち着かせられる訳もなく、こんな思いをするのは不謹慎だということも忘れて心の中で騒つく。
2人はタクシーを呼んで、
「前の車を追ってください」
と、如何にも探偵ものでよくある台詞をローレが言い、そしてタクシーは警察車の後ろで走って、最終的にまた一軒の家の付近まで止まった。
ブレンは会計をする姉を置いて先に盗み聞きしに行った。
バレそうでバレない状況にドキドキしながら好奇心と刺激を心の中で踊らす。
「はい」
ドアの向こうからラセットブランの髪色をした若い女の人が出てくる。昔見かけたことがあったが、名前聞くまでは思い出せずに居た。
「えっと…警察の方?私何かしましたか?」
許しを懇求するような優弱な宝石がキラキラと光っていた。
「おはようございますFrauアンナ。突然の訪問で驚かせたことをお詫び申し上げますが、今朝7時頃に…」
ブレンは同じようなくだりが嫌いだ。
姉は同じくだりの最中にブレンと合流した。
「私は、前庭のみでのお掃除ですので、あまり屋敷の中のことは知りません。ただ、ウィルソン様がルーシと仲良かったと感じたのは確かです。ご主人様と奥様がまだいらっしゃった頃からそうでした」
「そう感じたのはいつからか思い出せますか?」
「ローレお嬢様が3歳になる頃からでした。お嬢様の3歳の誕生日にパーティが開かれていましたが、その時にウィルソン様が親しそうにルーシとお話しながら前庭を通り過ぎる所を見かけたのです。とても衝撃的だったので、その光景は今でも覚えています」
「まぁ、確かに驚きの情報ですが、どうしてそこまで衝撃的だと感じたのですか?」
「それはもちろん驚きます!だって私も他のメイド方々もみなずっとウィルソン様がお好きになられていたのは奥様の方だと勘違いしていましたから」
まだその頃は小さかったから、ブレンもローレも全くこのことを知らずに、2人一斉にえ?!という顔になった。
ブレンはその信じられない事実を小声で姉に確かめた。
「おい、姉さん知ってたか?俺は全く聞いとらんぞ!」
「いいえ、全く。私も今初めて知ったわ」
そう首を軽く横に振る。
「あいつが俺らの母さんを?」
「待て。母の日記があったのを思い出した。あの人に取られてないといいけど」
「おい、そんな大事な事は早く言えよ」
「あなた、誰にも気づかれないよう取りに行きなさい。黒いトランクごと持ってきてもいいから」
「…わかった」
幸い、姉の言うことだけには従順だ。
姉は残って会話の続きを聞くことにした。
「どれ程前から奥様に好意を寄せられていました?」
「さぁ、分かりません。少なくとも奥様が屋敷に来た頃からそうでした」
「では、屋敷に来る前からということも有り得ますね?」
「はい…恐らく」
付き添いの刑事が頷き小さな黒い手帳にメモした。
「なるほど。どうも!お忙しい中ありがとうございました。これで失礼します」
もちろん、ローレは警察しかいない絶好のチャンスを逃す訳に行かなく、彼女は今現れたかのように警察達の前を通る。
「Frauシュルツ!これはいい所に来ました」
「こんにちは」
何事もなく自然を装うその演技の上手さはまさに母親譲りだ。
「10年間も消えたままでしたから、私たち警察も心中だと思っていました。本当に無事で何よりです。ご両親も見つけるよう我々は最大の努力を尽くします。さて、こんな中で申し訳ないのですが、少しお尋ねしたい事があるのです」
「ええ、ここで構いません」
最初のコメントを投稿しよう!