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「あなたの母親について、覚えている限りでいいですがー、何かウィルソン卿と仲が良かったり、揉め事をしたりなどをしているとこを見かけたことや感じた事はありましまか?」
ローレは目線を逸らして過去に遡り、段々と聞いてはいけなかった記憶を思い出させられた…
時は5歳。ウィルソンおじ様が屋敷に来ることで弟と庭で追いかけっこをした日。この日の太陽は今よりもずっと暖かく、薔薇もずっと刺々しく、鮮やかで魅惑的なお洋服を着ていた。
飛び回る蝶々、通すぎる度に香る焼き立てバウムクーヘン、目に眩しく映る太陽の光…
その全てが鮮明に頭の中で投影されてゆく。
あれは屋敷の中に隠れた悪ふざけが好きな弟を探している最中のこと。
そう、あの二階の部屋のドアの隙間から…
「やめて!近寄らないで!」
ママがもしかして危険に晒さている?!
いや、焦ちゃったダメ、状況を判断しないとってママが言ってたから…
自分の部屋の中に閉じこもり、恐る恐る耳を済ませた。
「バレませんよ〜、上手く隠せば何事も無かったのように過ごせますから」
「私にあんなことさせるわけ?しかもあなたと?父様が亡くなったから次は私?冗談じゃないわ!」
「忘れました?お父様の前からですよ?私は貴方様を愛してっ」
「そんな鳥肌も立つ告白はもういい!吐たくなるわ。宣言しますけど私はあなた様の欲のために存在している女ではありません!」
「これは奥様。失礼ですが、私とのお約束をお忘れで?」
「ヤ・ク・ソ・ク。ねぇ?そんなもの私の前で効くと思いになられて?」
「あの家族の血を引いているのは分かりますが、そう悪魔の娘にお戻りにならないでください」
「あら?其方が言うセリフ?いいですか?私はもうアイロスで充分なの。あなた様のその貪欲を満たしてくれる小娘なら星の数ほどいますわ!もちろん、私みたいな血を引いている玩具が欲しいのでしたら、他を当たってください」
ガチャ
「とにかく、これ以上私の人生に針を刺さないで!」
「そう言ったのが最後ですね?」
「ええ」
「なるほど」
先程と同じように頷き帽子をガクンと下に下げた。
「ありがとうございます。また何か伺うと思いますのでその時はまたのご協力をお願い致します」
そうして黒い車が去り、1人に取り残されたローレ。
母はあの男に何をされたのか
あの時聞いたものは何か
裏切り者は誰か、誰であるべきか
大まかな裏を掴めたローレであっても、すぐに行動する訳には行かず、何よりも先に両親の行方を掴めなければ犯人を網に入れることもできない。
そして、まだ筋が通らない「?」がいくつかある。
失踪はそもそも何の目的なのか?
失踪することで何か得られるわけもなく、寧ろ…
白い煙をかき分けて真実へ歩み寄ろうとした時。
「まぁ!お嬢様ここで何をしてらっしゃいますの?」
「クレアさん」
「あれ?おぼっちゃまは?」
「物を取りに屋敷に戻ってるの」
「そうでしたの!私さっき警視さんの車がこの付近の道路を通り過ぎた所を見かけました。ほんとえらいことになったものね!もう私一睡もできそうにありませんよ、私たちが寝ている間に誰かが殺されるなんて考えただけでゾッとしますわ!」
「本当にそうね」
「それに、あなた達のご両親、奥様とご主人様がまだ戻っておられませんのに、こんなことになられてしまって大丈夫ですの?」
「私達なら大丈夫よ。それよりも早く親を見つけないと」
「そうね、もう10年以上経っていますからね!情報得られるか分かりませんけど、今度警視さんに頼んでみますわ!」
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