6 ・ 行方

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6 ・ 行方

あの屋敷に戻ることには当然抵抗が邪魔していた。でも日記に失踪の理由(ワケ)が書いてあるかも知れない。 ブレンにはよく分からなかった、どうして自分達だけが日本に来ることになったのかを。四人で行動するのは確かに目立つかもしれない。でも居場所さえ教えないのはどうかとも思える。 姉には色々と注意を念入りに押されたにも関わらず自分にはこの一言しか言われなかったー 「ごめんね、ブレン…パパママたち、これから危険なお仕事に出かけなければならないの…でも大丈夫、君たちが大きくなった時には必ず帰ってくるわ!だからそれまではお姉ちゃんの言うことをちゃんと聞くのよ?当分長い間会えなくなるけど、これも君達の為だから、許してちょうだい」 それが最後だった。 どう考えてもあれはパーティに行く格好、あの格好で「危険なお仕事」なんて当然出来ない。 それに、自分達がこれから失踪するのをまるで知ってたかの様に言ってたけど、どこまで知っていた? 彼は何回考えても両親の失踪がおかしく思えた。 あの日以来、姉も厳しくなり、段々と喜びの感情を忘れていき、笑顔を失っていった。 昔を振り返れば、まだ両親が居た頃の姉がどれほど輝いてたことか。自分を走って追いかける時も、ブランコする時も、味がつまらない水を飲む時でさえ笑顔は欠かさなかったのに、今じゃあ堕天使(ヘルエンジェル)だ。 翼を未だ焼かれていなかった“過去の栄光”に縋り付いていると、不運に焼かれた黒焦げの屋敷が目に見えて来た。これ程自分の家に戻りたくないと思ったことはない。 恐る恐る屋敷に入るものの、どうやらアイツは居ないようだ。ホールは薄暗く、肝試しで廃墟に来ているみたいというか、コソコソしてて泥棒みたいというか、何か悪いことをしているみたいでどうも性に合わない。 ブレンは大急ぎで階段をかけ上がり、人が居ないか確認して自分達の部屋へ入り、トランクごとまるで業者の如く右肩に背負ってホールに戻った。 ホールに戻ったのはいいものの、聞き間違えなのか、声がする。 この家に心霊現象?あるわけない。だったらどこから?耳を済ませて聞いてみると、どうやら奥の方から何かが物音がした! もしやアイツ?それならトランクがある! そうトランク持ち上げながらドアの前へ。 「んー!んーー!」 女の声?これはもしや口が塞がれている?! 「フン、こんなドアで入れんと思ったら舐めてるぜ」 金具が外れてドアを蹴破った衝撃音がしたかと思うと、なんとそこには手と首が縛られていたサラが父さんのチェアの上に座らされていて、紐は窓の方へ縛り付けられていた。 「おい!大丈夫か?!今来るぞ、この辺になんかしら切るものが有る筈」 解くのがめんどくさいのか時間がないと思ったのか、机のタンスを1個ずつ調べてハサミを取り出し紐を真っ二つに切り、口に付けられたガムテープを取る。 「はぁ…はぁ…ありがとうございます…よかったですわ…メイドの皆様お昼休憩でいませんの…」 「アイツにやられたのか?」 「見たんです…彼が…ルーシを…その時は…気づけなかったんです……」 「見たのな?」 「ええ…彼に…自首を勧めたら…こうなってしまって…」 「馬鹿か、あんなヤツが自首を聞いてくれるわけねぇだろ。とにかく逃げるんだ、タクシーでもなんでも」 「ええ…でもどこへ」 「いいからついて来い、俺と居ればお前は無事だ」 蹴破られたドアを後にして、2人はこれから駆け落ちでもするかと言わばかりに急いでトランクと共にタクシーに乗った。 ブレンがタクシーに乗ろうとした時、丁度缶ビールを片手にしたアイツが屋敷に向かって来るのを見えて、一気に恐怖の電流が身体中に流れてビクッとなったと同時に、 「なんだあのサイコパスは、こんな事やらかしときながらも酒飲んでんじゃねぇ!」 と、彼の狂気じみた行動に驚きと怒りを覚えてタクシーに乗り込んだ。 「マルクト広場だ、急げ!」 アイツが気づいた時には、タクシーは既に走り去っていた。
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