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両親は失踪しているままだった。生きているかすらも分からない。10年前のとある慈善パーティを以降、行方をくらましていた。
2人はというと、母に事前に、
「もし私たちが明日まで生きて帰ってこなかったら、荷物を全てまとめて日本へ行きなさい」と命じられていた。
2人は小さくして故郷であるドイツから離れ来日し、母の親戚に養子として出された。
母はとても慈愛に満ち溢れる女性だが、彼女の家族の人はあまり好ましくなく、2人はあまり好かれなかった。
よく見放しにされ、まともに世話もさせて貰えなかった。
その状況下とは言え、ローレはそれで精神的にやられたことはない。かえって彼女は強くなっていた。弟を守り、姉としての使命を厳しく果たしている。
曾お祖母さんだけは2人に優しかった。曾お祖母さんは2人に家を与え、彼らにここで住むよう、彼らを助けた。
ブレンは常に養父を深く恨み、軽く殺意すら抱いたこともあったが、姉が居るおかげで、彼は最後まで抱かずに済んだ。
ローレは新聞を取り上げ、記事に一つ一つ丁寧に目を通していった。ブレンはそんな姉を見ながらお米を口に運ばせている。
「ちょっとこれみて」
彼女は紙をブレンに渡す。
【ウィルソン卿、シュルツ家屋敷を売ることを決意】
表紙に印刷された懐かしいウィルソン卿の顔と、自分の屋敷と黒い文字を目にしてキレた。
「ふざけるなっ!冗談じゃねぇ。まだ俺ら生きてるというのに、勝手に決めんじゃねぇよ、そもそもこの屋敷は、俺らに残されるものなのに、よく知らんやつに渡すなんて許せねぇ」
「落ち着きなさい」
ローレは冷淡に言った。
「第一、我々はこの世から消されたと認識されている。彼らは私たちはもうこの世にいないことを前提にこの屋敷を売ることにしているのだ、我々の屋敷を取り戻したければ、まず生きていることを名乗り出ねばならぬ、しかし、もし我々がここで名乗り出たら、大々的報道され、我々の命も、生きてるかもしれぬ親の命も、危険に及ぼしかねない」
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