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逃走劇をギリギリの所で成功させ、2人は見事“無事”広場に戻ることが出来た。
「これからどうします?」
「合流だな、さっきのとこにまだ居るといいけど」
姉は1歩もそこから動いてなかった。
「君にしては遅かったな」
「ああ、ちょっと彼女を連れてな」
「サラさん?」
「アイツに殺られるところをなんとかしたぜ」
「そう、やはりか…」
「お陰様で助かりました、彼から暫くあなた達と共にするよう言われまして」
「そうですね、あの家には戻らないようにしましょう。新たに泊まる場所を探さなければ..」
「おいおい、お前の弟がドアを蹴破って助けてやったのに褒めてくれねぇのかよ」
「『人を助けるのが当たり前だ』そうお父さんに言われたでしょ、それともアレが欲しい?」
「まぁそれは分かってるけど」
「ご褒美の飴は後だ、まずは身の安全を確保せねば」
「警察に事情を説明した方がいいのでしょうか」
「見ただけじゃあ証拠ってもんが足りん気するぞ」
「予約が取れたわ、行きましょう」
避難場所はアルブレヒト城の向こう側、エルベ川を渡った所にあった。
一通りの手続きを済ませた後、黒天使2人は仲良く白いソファに座ってお母さんの日記を読み始めた。
「日記って毎日書くもんじゃないのか?」
「多分、彼に肝心部分を綺麗に破けられただろう。それにしても、『上手く行くといいわ』って、何かの計画を用意していたんだな」
「おかしいと思ったよ、ぜってぇ(失踪は)わざとだ、あの脅迫状とかだって」
「だとしたら、お母さんはパーティを利用して脅迫を送り付けた犯人を誘き寄せる作戦を企てたのかもな」
「でも、大人になったら必ず戻ってくるってどういうことなんだ?俺そう言われたんだけどさ」
「私もそう言われた。でも、日記には『下手すれば二度と戻ってこれない可能性もある』と書いてあるから、必ずの保証はないだろう」
「誘き寄せるのは分かったけど、なんでその後消えたんだ?俺らを日本に送り付けたりして何の意味があんの?」
「さぁ…単に我々の身の為だと思うが…」
「その……誰だ…あの父さんの父さん」
「祖父な、ノルベルト」
「それだ、そいつも関係あるんじゃねぇの?」
「祖父に向かって失礼な態度はやめなさい。でも確かに脅迫状の犯人は祖父の株が倒産した時に恨みを持ったあの会社の娘、ルーシかもな」
「そもそも動機もないのに殺る必要ないだろ、ほら、あのサイコパスにだってあってもいいだろ」
「調べてみるか、そんな情報載ってなかったけど」
調べてみても、そこにはウィルソン卿の証券会社に関する情報しかなく、殆どが関係のないものだった。
「優遇とか株券とか、よくわかんねぇけど、金のことしか載ってねぇな」
「仕方ない、サラさんに聞いてみるか」
あまり外で語れることない情報はやはり中の人が知っていた。
「ええ、確かにライバルで、当時株を巡って競っていました。ただ、公の場では仲良くしているフリをしていたので、あくまでも噂程度でした」
「それを動機に出来た筈では?」
「もちろんそう証言しましたし、本人も認めていましたが、当時この事件があまりに複雑で、結構証拠を掴めないまま迷宮入りしました」
「物的証拠がなきゃな、アイツが指紋を残すとは思えねぇし、そう白状しねぇと」
「どち道犯人の可能性が高い。彼から何か聞いていなかったの?」
「そう言えば何かこう呟いていましたわ。『そろそろ会わせないと』とか、『復讐だ』とか」
「それ、いつの話なの?」
「皆様がお戻りになる3日ほど前です。なんの事だが分からなくて、聞こうにも聞けませんでした」
「会わせないと?誰を誰に?」
「まだ理解できないのか?恐らく両親の話、つまり我々シュルツ家を敵に回そうとしている事だ」
「おいおい、もう祖父は亡くなったのに、まだなんか(恨みを)持ってんの?」
「ご主人様とは仲良くしてらしたし、そんなことはないと思いたいですが」
そう言うと部屋全体がふっと静まり帰り、暫く換気扇の音だけが響き渡っていた。
やがて、小さな呟きがその静寂を破る。
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