6 ・ 行方

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一方、警察署ではシュルツ家に起きる複数の怪事件について議論を交わしていた。 ルイス警部はびっしりと文字が書かれたボードをじっと見て考えては軽くため息をついている。 10年前、失踪とされていた子供が突然戻ってきていた。母親の国籍からして匿っていた場所は日本だろう。しかし、あの母親は疑わしい。人種や性別を差別したりする訳ではない。でも、彼は知っている、彼女はだと言うことを。 その情報は容疑者の一人であるウィルソン卿から聞いたことで、新聞でも度々その家族のことが取り上げられていた― 「神城(しんじょう)家」 日本では知らぬ者は居なく、その名をあげるのも嫌がるだろう。億単位にも登る莫大な資金を持つが、その裏では違法となり逮捕された数々の悪行を犯した者が多く居たとされる犯罪家族である。その家系に生まれる殆どは男性だが、あの母親は珍しくも女性であった。彼女は常に周りに親切であり、どう見ても犯罪の血を受け継いでいない様に見える。だから返ってそういう人こそが怪しいのは周知の事実。 10年以上に追っていたあのウィルソン卿はどうか? 前回彼にはアリバイがあった。だが今回ならその穴は潰せる、物的証拠さえあれば― この10年間、彼は他の凝った犯罪に飲み込まれてまともに彼らの事件を調べられなかった。所々目撃情報はあるものの、結局は見つからずじまい。家族全員心中したとさえ囁かれた。でもその誰も予想出来なかった、この事件が10年後にまた動き出すとは。 「問題はこの10年間の空白だ。そもそもこのルーシがなぜ殺されなければならない?例え前の事件と関係あっても、これだけ年数を開ける意味なんてないだろ」 「いきなり気が変わったのかも知れません」と刑事A。 「そんなことあるのか?まぁあるかも知れないけど、子供達が帰ってくるタイミングを見計らったには何かしら意味がある。なにか不審な点があるか今度聞いてみないとな」 「そうなるよう仕組まれていたかも知れませんよ?」と刑事N 「もし例の二人が10年後にルーシを殺すという約束があった場合…」 ボートに貼られた二人の写真をじっと見つめて、 「失踪事件が事実になってくる。しかし、あのパーティーに怪しい者よりもむしろ慈善に貢献する者しか居なかった。もし犯罪グループが本当に居たならならとっくにあそこで暴れ回ってる」 「ただのイタズラや嘘の可能性もありますよ?」と刑事E。 「そうか、『狂言』という手があったか。そいつはなかなか考えたもんだな。とりあえず失踪の理由はついた」 警部はそろそろインクが尽きる黒い円で二人をグルグルっと囲み、その円の外に「失踪を捏造」と書き込んだ。 今の所進みは順調である。ボートの左上に関係図、右上に失踪事件の概要、左下に今回の事件、そして右下にノルベルト変死事件が書かれていた。 「さてと、このルーシが殺された理由についてだが、皆さんの意見はどうだ?」 「きっとウィルソン氏となんらかの因縁でしょう」と警官A。 「それならもっとウィルソン卿に事情聞かねばな」 その時、まるでその言葉を待っていたかのように、耳を疑う情報が風のように飛んできた―。 「警視!大変です!クレアさんからの通報で、シュルツの子供とメイドの1人と、容疑者のウィルソン氏が屋敷から消えたそうです!」 「なんだと?そいつはもしや誘拐か?」 あまりの驚きで、その場全員動揺どころか反応すら追いつけなかった。 「わかりません。ただ、元々アイロス氏の書斎とされた場所のドアが蹴飛ばされていたそうです」 「そいつは乱暴だな」 警部は冷ややかに笑った。ただ彼にとってその出来事が示すことは明々白々だった。 「それと、窓に縛られた縄とそれを切った後がありました」 「そうか、とにかくまず現場に向かおう。あの4人は聞き込み調査をすればすぐわかる、これぐらいの短時間では遠くに逃げれないだろう」 彼はそう言ってコーヒーを飲みながらシュルツ家のお嬢様から聞いた通報を思い出した。 「ローレです。ウィルソン卿の新聞紙を理由に帰国したのですが、今朝たった今我が家のメイドが誰かに殺害されたを見つけました。どうかすぐに来て頂きたいのですが、メディアにはまだ言わないで欲しいです。私達は命の危機にあります。私達もに殺されるかもしれません、お願いします」
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