1・切欠

3/3

20人が本棚に入れています
本棚に追加
/32ページ
「なら、内緒にさせるようにしとけばいい、方法ならいくらでもある」 ブレンは身を乗り出した。 「待て」 ローレはさらに冷静な態度で彼を止める。 「この屋敷を売ることに理由は必ずある、我々が生存していることを確認したいのかもしれん。この屋敷を売っても、彼にこれと言った利点はない。せっかく用意された権利や財産を、捨てるような人でない。だとしたら、これは我々を呼んでいる可能性もある」 ブレンは新聞を乱暴に捨て、硝子(ガラス)のコップに入ったシュペッツィ(コーラをファンタで割ったもの)を飲み干した。 「なら、行ったほうがいいんじゃねぇか?」 と、彼は静かにコップをおいた。 「でも、どうして我々を、だとしたら、我々が生きている情報をどうやって手に入れたのか」 ウィルソン卿は知り合いではあったが、それでも彼女は警戒心を強めている。それとは逆に、ブレンはこのことに対して興味津々である。まるで敵と喜んで戦う騎士のようであった。姉は常にそんな彼を心の中では 「Schwarzer Ritter」(黒騎士)と呼んでいる。 「会えれば分かるだろ、なんせお前は強い、目だけで勝てるだろ」 彼の言う通りに、姉は目の視線だけで人を恐怖に落とすほどの力があった。彼女は弟と自分を守るために常にそれを使っているのだ。もちろん、身を守る術も備わっているが、良心からなのか、それはできる限り使いたくなかった。 「良いかブレン」 彼女は厳しく弟を見つめた。 「我々は勝つために行くのではない、真実を追求するために行っているのだ。我々自身のために、そして我々を待つ親のために行くのだ。お前は楽しんでいるでしょうけど、これは危険なことだ。命を落としかねない。消して抜かるな」 姉である威厳を見せつけられた以上、ブレンは彼女に逆らうことはできない。 「分かったさ」 ブレンは声を落として言ったあと、再び夕食の時間が戻り、ローレは静かに乱暴に捨てられたしわしわの新聞をじっと見つめた。
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加