2・旅立ち

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2・旅立ち

彼らは日本から離れる決意をした。必要な荷物をすべてまとめて、ドイツへと向かった。 幸いなことに、10年前に存在を消された家族の一員とはバレてもいないし、特に誰にも何か聞かれることも、疑われることもなかった。存在を忘れられている。 空港は広い空間であるため、飛行機乗るまではブレンは上機嫌であった。好奇心に唆られてあちらこちらに歩き回っていた。 だがブレンにとって飛行機は他のどの乗り物よりも退屈で、席についた途端、彼は愛する姉を観察し始めた。 姉は母並みの美人である。 だが人に対しては冷酷だ。たとえこの自分にでさえ、冷淡に接している。とはいえ、彼女はなんでも(こな)せる気の優しい姉でもある。うっかりミスをしてしまい頬を赤く染まる顔をブレンは自分にしか見れないと独占できることに対して優越感を覚えていた。 ローレはというと、弟の行動に対して口煩くしていながらも、きちんと自立をしてほしいとゆう矛盾を抱えている。 彼らの両親は所謂駆け落ちをした夫婦だった。 母綾香は、あの家族から生まれたとは考えられないほど慈愛で満ち溢れた優しい性格をしていた。慈善活動にはぴったりの女性であった。 父アイロスは行動力と洞察力に優れ、それが故に仕事もこなせる「モテる」タイプの人だった。 長女であるローレはしっかり者。姉としての責任感が強く、母の教育が良かったからなのか、小さい頃からすでに独立していた。 そんな姉の弟であるブレンは、いかにも不良に憧れる思春期の男の子のようだった。 ただ、本当に不良になりたいかというと、そうでもない。例え気晴らしに窓硝子を割ったりしてみたいと思っても、実際、「姉に怒られる」からと、何かと理由付けては思いを留まらせている。 ブレンは飴を食べれずに苛々している。 ただ何も出来ずに縛られているがため、今こそ彼が窓硝子を割るようなことをしたい気分であった。 「何故姉さんはこんなにも退屈を感じずに寝れるんだ」 ブレンは不思議に思いながら彼も真似して目を閉じた。
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