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両親が知り合ったのは1つの変死事件からだった。
そして全ても彼らの父アイロスの、さらに父親であるノルベルト氏が変死した状態で発見されたことから始まっていた。
彼は首に吉川線が見られるというのに、死因が心臓発作という不可解な状況で発見される。
当初は首締められたときに起きたとされたが、彼は以前全く心臓発作が起きたことがなく、さらに現場は争ったあとや打撲痕があるにも関わらず、彼に抵抗した跡はなかった。
死後に犯人が工作したと思えるが、メイドたちの死体発見時刻と、彼の死亡時刻に間は少なかったため、工作は難しかった状態であった。
メイドたちは疑われたが、彼は人望厚い人であったため殺人動機はなく、さらに同時刻現場に居合わせたウィルソン卿もメイドたちを証言していて、メイドたちも彼がソファーにいたと証言。
当時、この有り得なさが大きな話題となり、事件は迷宮入りした。
そしてその時に、疑いをかけられたのは、息子のアイロスだった。
彼にはお金に殺人動機があり、公園にいたという不十分なアリバイであることから、彼は一時逮捕されていた。
だが警察が聞きこみ調査している途中、犯行時刻彼が公園の橋にいたとアリバイ証言する女性が現れた。
そう、その女性こそが、綾香だった。
そして釈放されたあと、アイロスは謝礼を持って綾香の元を尋ねた。
アイロスはほぼ彼女に一目惚れであったと言っても良い。
するのもおかしくないほどの美人でもあった。
長く肩すぎまで伸びた黒髪に、余計なものひとつない白い肌に、人を惹きずける独特な目をしていた。
彼らは速と言ってもいいほどの早さで結婚し、2人の子宝に恵まれ、幸せな日々を過ごしていた。
あの日まではー。
ブレンの脳内から薄らと母親の顔が浮かび上がってくる。
彼は父よりも、母との記憶が多かった。記憶の中の母は、常に笑顔で、慈愛の満ちた微笑みで自分を見てくれていた。
父はそこまで記憶にないが、正義感で溢れる人だったことは覚えている。彼と泥棒を捕まえることを経験したブレンにとって父は偉大な人だった。
彼が口に咥えるもうすでに棒しか残っていない飴も、父がよく自分にくれていた「勇気の証」である。
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