竜神様

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竜神様

ジズは美味かった。 勝つのは結構リスクが高かったけど、もう一匹くらい来ないかな…。 今回は捕まえるんじゃなくて、お願いして豚に焼いてもらった。 主の慈悲深さを真似るためだ。 豚は、今回は逃げるのではなく、おとなしく焼いてくれた。 神様は「怖くて諦めたように見えるんだけど…」って言ってたけど、そうかな? まあ、いいや。 両手にジズの肉を抱えて飛ぶリヒトの背に乗りながら、俺はそんなことを考えた。 しばらく飛ぶと、森が終わり、平原が広がっていた。 「今夜はここで寝ようよ!」 「いいと思います!」 ということで、平原におり、リヒトは人化。 空は赤くなってきていた。 「少し早いけど、夕飯にする?」 神様の提案に頷き、豚を探しに行こうとすると、 「だっ、誰だっ!」 人間の声だ。 二人と顔を見合わせる。 「最果ての異境に続く森からやって来るとは、貴様ら、誰だ!」 三人の人間が出てきて、俺たちに刀を向けた。 と、ジズの肉に気づき、目を見開いた。 「あ、あれは、先日村にやってきた巨鳥…」 「ほ、本当だ!」 「な、あれを仕留めたというのか…?」 リヒトが口を開く。 「ま、待ってください!僕たちに敵意はありません!」 「し、信じられるか!」 「ここで終わらせてやる!」 「村へは行かせんぞ!」 人間たちが剣を構えて走ってきた。 ジズに比べると牛の歩みのようなものだが、人間を前に緊張して動けない。 それは他の二人も同じのようだ。 「「「ウオォォっ!」」」 人間が地を蹴る。 「っぐ、」 緊張を解かないと、動けない。 俺は咄嗟に、息を大きく吸い込んだ。 「グルウゥゥォォオォオッッ!!」 咄嗟に叫ぶ。 とりあえず気合を入れるのが目的だったが、人間の戦意をそぐのには十分な威力だったようだ。 咆哮によるダメージを与えようとしたわけではないので、主と戦った時のように、まわりのものを破壊することはなかった。 それでも、十分だったようで。 「あ、ぁあ…」 「りゅ、竜だ…村は、終わりだ…」 「お、おふくろぉ…」 人間たちはその場にへなへなとへたり込んだ。 「て、敵意はないので…」 リヒトが声をかけるが、人間たちは聞こえていないのか、ふるえているだけだ。 「おい」 俺が声をかけると、人間たちがびくっと体をふるわせた。 「敵意はない。自己紹介をしておくと、俺と白い髪のは竜だ。ええと、お、俺たちは、」 古代竜だというとややこしそうだな。 えっと…、 「僕たちは古代」 リヒトの口を慌ててふさぐ。 神様が口を開いた。 「僕たちは、ええと、あなた達が『竜神の息吹届く草原』って呼んでる場所から来た竜だよー。人間に興味があって、来ちゃった」 そういうことにしといてねー、と神様から小声で伝えられたので、俺とリヒトはこくこくと頷いた。 神様に向けたものだったが、人間たちはさっき神様が話した内容の肯定ととったようだ。 「よ、良かった。それでは、本当に敵意はないのですね」 「なあ、相談してみないか。強い味方じゃないか。十分知性もあるみたいだし」 「ばっ、馬鹿!そんなこと、竜に頼めるか!」 人間達がなにやら言い合っている。 あ、リヒトが俺の手を払いのけた。 「あの、僕たちで何か助けになるんでしたら話してもらえませんか?僕たちに出来ることならやらせてください!」 リヒトの言葉を聞き、人間たちは頷き合って、話し出した。
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