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二人が出発してから特に魔物の襲撃等はなく、僕は村人達と話しながら二人を待っていました。
「りゅ、りゅーじんさまっ」
小さな女の子が必死な様子で話しかけてきました。
緊張しますが、しっかりしないと、人間に慣れないと。
「何ですか?」
「りゅーじんさまは、なんで私たちの村をたすけてくれるの?」
「こっ、こら!竜神様に気安く話しかけては…」
慌てて母親らしき女性が女の子を叱ります。
「いいですよ、むしろ話しかけてくれた方が嬉しいので」
そう言って微笑むと、女性は少し顔を赤くして一歩下がりました。
あれ、もしかしてまた怖がらせてしまったんでしょうか?
少し不安な気持ちになりますが、先に女の子の問いに答えなくては。
「僕達には尊敬する人がいて、その人はとっても優しいんです。だから僕達も、人間や他の生き物に優しくしないと、と思って」
「じゃあ、いけにえはいらないの?」
生贄?
「ずっと昔ね、この村にね、おっきなまものが来たの。他のまものをやっつけてくれるかわりに、五日に一回、村の人を食べちゃうの」
なるほど、僕達が村人を食べないか不安だったから、何で助けるのかを聞いたようです。
「僕達はいけにえは要求しませんから、安心してください」
「ほんと?よかったぁ、りゅーじんさまいい人だね!」
「うーん、人じゃないので『いい人』ではありませんけどね」
「ほんとだ!」
女の子がにこっと笑って僕に飛びついてきました。
「おわっ」
「りゅーじんさま、抱っこして!」
「あっ、わ、私も!」
ちょっと離れて見ていた二人の子供もわっと集まってきました。
大人たちがおろおろとしていましたが、大丈夫ですと言うとほっと肩をなでおろしていました。
「よいしょっ」
「わぁ!」
子供達を腕で抱えて持ち上げると、子供達がぱっと笑顔になりました。
「りゅーじんさま、見た目はすっごくキレイなのに、力持ちだね!」
「すごーい!」
楽しんでもらえて嬉しいです。
子供達はしばらくきゃっきゃと騒いでいましたが、最初の女の子が僕を向いて口を開きました。
「りゅーじんさま、りゅーじんさま」
「何ですか?」
「あの、もう一人の黒のりゅーじんさま、なんか怖い」
あー、ケイトのことですね。
確かに咆哮をあげて大人たちを怖がらせてましたし、口調もちょっと冷たいですし、基本あまり笑わないので子供達に怖がられてもおかしくないですね。
主君いわく「くーる」だそうですが。
「悪い人…じゃなかった、悪い竜ではないんですが、ちょっと雰囲気が冷たいのも確かですねぇ…でも、尊敬する人に褒められたりするとすぐ笑顔になりますよ!あ、あと、寝顔と笑顔は怖くありませんよ」
「へぇー」
「ご飯あげたら笑うかな?」
「どうでしょうね?」
「夜になったらのぞきに行こうよ、りゅーじんさま!」
「あ、いいですね」
そうやって子供達と遊んでいると、ケイトが帰ってきました。
牛を持ち上げたケイトが村に帰ると、村人たちが歓声を上げました。
「竜神さまぁ!」
「ありがたや、ありがたや!」
「飯だ、飯が食える!」
大人たちが涙を流して喜んでいます。
「えっと、この牛、誰か」
「はっ、こちらで処理しておきます!」
数人の大人が牛をかついで建物の中に入っていきました。
「あ、薬草も一旦おいていくねー」
「ありがとうございます、使わせていただきます!」
けが人の看病をしていた女性たちが神様が背負っていた籠を持っていき、かわりの新しい籠を渡しています。
「ケイト、ちゃんと力は加減してくださいね」
「…見てた?」
「はい、見てました」
ケイトが豚を粉々にするところは、ばっちりこの目で捉えましたよ。
「これから頑張る。…で、リヒト、なんかすごく懐かれてないか?」
「ふっふっふ、僕は無愛想で怖がられてるケイトとは違うので」
「…じゃあ俺は村人たちを信用させられなかったリヒトとは違う」
「ケ、ケイトのやり方は強引だったと思います!」
「別にわざとじゃなかったし」
「はい喧嘩終わり!子供達が困ってるよー」
睨み合っていた僕たちの間に神様が割り込み、兄弟喧嘩は終わらせられました。
「はいケイトくん行くよー!」
神様とケイトは、また森に入って行きました。
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