9人が本棚に入れています
本棚に追加
今日俺が狩った魔物は、牛が二頭と豚が三匹、それに下位の牛の魔物の「レッサーキッズブルタロス」っていうのが二頭。
これで村人たち全員の2日分の食料になるらしい。
豚と牛一頭は今日食べ、残りは干し肉にして保存しておくんだそうだ。
村の広場に村人たち全員が集まり、大きな焚き火を輪になって囲んでいる。
俺たち三人もその輪に加わっていた。
俺は足を伸ばして座っている。
早くも「人間に慣れる」という目的を達成しつつあるリヒトが羨ましい。
俺は緊張であまり話しかけられずにいた。
「さあみんな、竜神様に感謝して、夕飯だ」
長老の挨拶(?)のあと、食べ始める。
村人によって切り分けられ、焼かれた串に刺さった肉が、一人3本配られた。
「お、美味しい!」
「美味い、美味いぞぉ!」
「竜神様…!」
いろんな人にお礼を言われ、俺は冷や汗をだらだら流しながらなんとか返事をし、やっと自分の串にかぶりついた。
うん、美味い。
やはり豚に焼いてもらうより人間が火力を調節しながら焼いた方が美味いな。
「あ、あの、りゅーじんさま!」
横から声がかけられ右を向くと、人間の子供がふるえながら俺を見ていた。
え、何でふるえてるんだ?
俺何かしたっけ、と慌てていると、子供ははい!と串を一本差し出してきた。
「…え?」
俺が首を傾げると、子供がびくっと体をふるわせた。
「あ、あのね、あの、これ、りゅーじんさまにあげます!」
あ、そういうことか。
「いや、いい。えっと、しばらくまともに食べてないんだろ?お前が食べればいい」
怯えさせないよう慎重に言葉を選んでそう返すと、子供はぱっと笑顔になった。
「黒のりゅーじんさまも、優しいね!あの、黒のりゅーじんさま、ちょっとこわかったから、ごはんあげたら笑ってくれるかなって思ったの」
怖がられてた。
リヒトからも言われたけど。
「あのね、私ね、ミミっていうの!りゅーじんさま、おひざ座ってもいい?」
「え、あ、いいけど」
「わぁい!」
ミミがぽすんと膝に座る。
ミミが話しかけてくれてるおかげで、大分緊張が薄れてきた。
「えっと、ミミだっけ」
「そうだよ!」
「えっと…名前、大事にしろよ」
「うん!」
ミミは笑顔で頷くと、串に刺さった肉を食べ始めた。
「わぁ、おいしい!」
目を輝かせている。
喜んでもらえてよかった。
「あ、りゅーじんさま、ちょっと笑った!」
「え、」
「りゅーじんさま、白のりゅーじんさまが言ってたとおり、笑ったらぜんぜんこわくないね!」
それはつまり、笑ってなかったら怖いんだな。
ていうか、リヒトのやつ、何を言ってるんだ。
まあ、話しかけてくれるきっかけになったようだから感謝しとこう。
「あ、そうだ!りゅーじんさま、私もお料理したの!」
料理?
立ち上がったミミはどこかへ走って行き、しばらくすると戻ってきた。
あれ、何か持ってる。
「これね、ミミが見つけて、お水に入れてぐつぐつしたの!元気になるやくそうだよ!りゅーじんさま、食べて!」
ミミに差し出されたのは茹でた葉っぱだった。
ぱくりと食べる。
う、ちょっと苦い。
が、期待した表情で俺の反応を見ているミミを悲しませてはいけない。
俺はごくりと飲み込むと、口角を上げた。
笑うのはリヒトほど得意じゃないから、伝わるといいんだけど。
「美味い。ミミ、ありがと」
「わ!黒のりゅーじんさまが笑った!わーい!」
よかった、うまく笑えてたみたいだ。
俺の笑顔を見て卒倒した女性が何人もいたことは、後で神様から聞いた。
俺って笑顔も怖がられるんだろうか?
ちょっと悲しかった。
最初のコメントを投稿しよう!