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真白の母は、彼が誕生して間もなくこの世を去った。
もともと、真白を授かったときは40歳をこえており、出産は危険な状態だと言われていたそうだ。
子供を諦めるように説得する父達に対して、母はせっかく授かった男の子だからどうしても産みたいと言い張ったと言う。
そんな母の強い意志で、無事真白は生を受けたが、母は産後のひだちが悪く命を落とすことになった。
父も3人の姉も、哀しみを抱きながらも、母が自分の命に代えても生み出してくれた、唯一の息子であり、末弟であることから真白を溺愛した。
女子のようにか弱く見えることから、姉の服で着せ替え人形させられたり、姉達からの過保護ぶりは凄まじかったほどだ。
姉達と並んでいると決まって四姉妹と呼ばれることもしばしばだった。
母がいないながらも、そんな家族の末っ子として幸せな日々を送っていた。
しかし、真白の15歳の誕生日に、突然不幸は訪れた。
父の提案で、高校受験の合格祝いも兼ねて家族で出掛けることになった。
あの日の思い出が脳裏に浮かび上がってくる。
『真白の御祝いだからな。どこでも好きな所へ連れてってやるぞ』
と父の言葉に、
『本当!? じゃあ僕、動物園に行きたい』
とねだる真白。
『まだまだ、赤ちゃんね。真白は ……』
『いいじゃない。真白らしくて可愛いわよ』
『そうよ。動物園なんて久し振りだし童心にかえって楽しむのもいいわよ』
真白の希望に陽菜がからかい、愛里と優香は賛同した。
動物園で象、麒麟、ライオン、パンダ、珍種の動物などを見て回り、優香の作った弁当を頬張った。
真白に似合うからと、愛里は兎の耳のついたカチューシャ、陽菜はパンダのぬいぐるみを買ってくれた。
正直、もうすぐ高校生になる男子が持つには微妙だとは感じたが、姉達の気持ちはとても嬉しかったのだ。
時間がたつのも忘れるほど、はしゃぎ回り楽しい1日だった。
まさか、その日が、父や姉達と永遠の別れの日になるとは知らずに……。
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