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自分に降りかかった悲劇の一つ一つを語り終えた後、涙が溢れ泣きじゃくっていた。
「そんな酷いことが……お前、それでずっと我慢してたのか?……」
黙って話を聞いていた樹が低い声で呟くと、更に言葉を続けた。
「だけど、お前の言ってることっておかしくないか?」
「えっ!……」
「だってよ、お前の家族が亡くなっったのって、どう考えてもお前が原因て訳ではないだろ。それで罰だのなんだのって変じゃないか」
「でも……僕を生まなきゃお母さんだって死ななかったし、あの日僕が動物園に行きたいって言わなきゃあんな事故起きなかった。それに……おばあちゃんだって……」
「違う!」
涙交じりに話す真白を樹が遮る。
「それとあの連中が、お前に酷いことするのが関係あるのか? 仮に家族の事がお前のせいだとしても、あいつらがお前を傷めつける権利などないはずだ。だって、死んだのはあいつらの家族じゃないだろ」
「そうだけど……でも……」
「それと、これ大切なものだろ」
樹の手で目の前に何かが差し出された。
「あっ!……これは……」
森下の手によって破られた写真だ。
裂かれた所は線が残り、皺が入ってしまったが、父や姉達と一緒に笑っている姿はきちんと形を残している。
樹が写真の裏にセロテープを貼りつけてくれたらしい。
「これ、高坂君が?」
「残念ながら元通りには出来ないけどな。形になればいいと思ってさ」
「ううん、有り難う。これ僕の支えだったから」
樹の思いやりに、再び目頭が熱くなる。
「お前は家族に愛されてたんだな。この写真見て思ったよ」
「うん、お父さんもお姉ちゃんも僕の事、凄く可愛がってくれたんだ。命に代えて僕を生んでくれたお母さんが悲しまないように、僕を大切にしなきゃいけないからって……」
「そうだろ。だからお前間違ってるんだよ」
「……」
「お前の母さんは、お前を傷つけるために生んでくれたわけじゃないんだろ?それに、そのお祖母さんは別として、親父さんや姉さん達は、お前を責めたことなかったんじゃないか?だったら、お前が幸せになろうとしなければお前の家族は浮かばれないと思うぞ」
樹の言葉に考えさせられる。
真白も母の死の事で、ひけめを感じ謝罪をしたことがあった。
『僕が生まれてなければ、お母さんは死ぬことなかったよね。お父さんとお姉ちゃん達からお母さん奪っちゃってごめんなさい』
すると父も姉達も、厳しい表情をして真白を叱った。
『馬鹿なことを言うんじゃない!そんな罰当たりなこと考えたら、頑張って真白を世に生み出してくれたお母さんに失礼だろう』
『そうよ。真白には幸せにならなきゃいけない義務があるのよ』
『わたしたち真白がいるから頑張れるのよ。お母さんが残してくれた可愛い弟なんだから』
『今度、そんな事言ったら許さないからね』
父や姉達は母を死なせた自分を、決して恨むことなく、惜しみ無い愛情を注いでくれたのだ。
「とにかく、家族に対して償いたいと思うならもう自分を傷つけたりするなよ。そうでなければ成仏出来ないぞ」
あの時伝えられた、父や姉達の言葉を、樹が再現してくれるかのようだ。
こんな暖かい言葉をかけられたのは何年ぶりだろうか?
大切な人達を亡くし、祖母に憎悪の言葉をぶつけられたあの日から、自分に幸せになる権利などないと思っていた。
心に凍っていた涙を溶かして流すように、真白は泣き続けていた。
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