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樹は真白の顔を覗き込む。
「こいつ、本当はあんな顔してたんだよな」
真白がミルクを抱き上げたとき、わずかな間微笑んだのだ。
高校生男子にしては高めの甘い声に伴い、その笑顔は天使のように眩しかった。
もともと彼は色白で大きな瞳の少女めいた美少年だ。
また小柄で華奢であるため、学生服を着ていなければ、女子と見間違うだろう。
淋しげな瞳で無表情だった頃の印象が、頭に残っていたことから、一瞬見せた笑顔が際立って見えたのかも知れない。
「こいつも俺と似てるのかな?……って違うか。一緒にしたら失礼だよな」
空手という情熱を失ってから、自分は死んだように生きていると感じていた。
真白も心を殺して生きてきたが、
自分の甘えとは比べ物にならない。
真白は家族を亡くした罪悪感に苛まれて、過酷な苦痛に堪えてきたのだ。
自分は親からの仕送りで生活し、
何もせず呼吸をするだけの毎日を送っていた。
真白も家族を失うことがなければ、きっとあの眩しい笑顔を見せていたかも知れないのに……。
真白の笑顔をもっと見たい。
樹の心に、今まで眠っていた熱いものが芽生えていた。
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