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朝陽が差し込み、目覚めた樹は起き上がって時計を見た。
時刻は9時になろうとしていた。
ベッドの近くのゴミ箱にはティッシュがたまっている。
真白を思っての自慰行為の跡だ。
「こんなもの、見られるわけにはいかないよな。後で片付けないと……」
着替えて台所にいくと、何か物音がする。
何事かと近づくと、食べ物のいい香りがした。
「あっ!おはよう」
エプロンを身に付け、お玉を持った真白が振り向く。
そのあまりの可愛さに、胸がキュンと鳴る。
「ああ、おはよう。何やってんだ?体はもう大丈夫なのか?」
「うん、お陰でもう大丈夫だから。台所勝手に使わせてもらっちゃった。お世話になったお礼に朝ご飯でもと思って」
食卓の上にオムレツとウインナーとサラダが置かれ、味噌汁の匂いまでする。
部屋を見回すと、脱ぎ散らかした服はきちんと畳まれ、見違えるほど部屋が片付いていた。
しかも、ため込んでいた洗濯物までが外に干されていたのだ。
「これみんなお前がやってくれたのか?」
「うん、せめて何かしないと申し訳なくて……」
「こんなこと良かったのに。サンキューな。なかなかやる気になれなくて助かったよ」
「いいんだ。それより、もう少しでお味噌汁出来上がるから、座って待ってて」
真白が味噌汁をかき回す。
「おっ!うまそうだな。だけどよ……」
冷蔵庫には朝食の材料などなかったはずだ。
樹は気になって、真白に訊ねた。
「まさか、お前、これ自分の金で買ったのか?」
「あっ……気にしないで、丁度安いお店が、開いてたから」
「そうか。悪かったな。後で払うから」
「そんな……これはお礼なんだから受け取れないよ」
「そうか?じゃあ有り難くいただくよ。そうだミルクにもやらなきゃな」
「あっ!それならドッグフード見つけたから勝手にあげちゃったけど駄目だったかな?ミルクったら台所動き回るんだもん」
ミルクを見ると、餌を食べ終わって満足したのか、大人しく寝そべっている。
「そうだったのか。餌の時間いつもはもう少し早いから助かったよ。ありがとな」
「さあ、出来たよ。食べよう」
食卓に座り、真白にご飯と味噌汁をよそってもらうとオムレツを口に入れる。
「うまい!このオムレツふんわりととろけそうでいい味だ。しばらく、ちゃんとしたもの食ってなかったから元気が出そうだ」
「そう?よかった」
ご飯、味噌汁とともに、オムレツ、サラダ、ウインナーとすぐに平らげてしまった。
「うまかったぜ。こんな朝飯久しぶりだ。お前、いい嫁さんになれるな」
「お姉ちゃん達にも言われたけど、僕は男だし……」
真白が微妙な顔をする。
話を聞けば、家事を取り仕切っていた15歳上の長姉を手伝っていたと言う。
自分が生まれたことで母を失い、母親代わりをつとめなければならなくなった姉の負担を軽くしたいと、考えていたようだ。
そんな優しい心を持つ真白が、ますます愛しくなる。
常に真白のそばにいたいという願望がわき上がり、樹はある決意をした。
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