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真白のアルバイト先のファミリーレストランで、樹は2つ返事で採用されることになった。
人手不足で猫の手も借りたい状態らしい。
今からでも働かせて欲しいと言い出した樹に、店長も呆気にとられていたが、とりあえず1日目は店内の様子を見学し説明を受けることになった。
広瀬と名乗った店長は、30代半ばくらいのがっしりとした男性だ。
やや強面であるものの、見かけより気さくな性格らしい。
真白は主に、キッチンで洗い物や野菜の下ごしらえ、料理の盛り付けを任されていると言う。
女子に間違えられ、たちの悪い客に絡まれたことが何度かあったため、混雑時以外は客の前に顔を出さないようにしてくれたそうだ。
今の時間は、ランチに訪れる客が減っていく時間らしい。
店内にいる客は、ノートパソコンを持ち込んで仕事をしているらしい男性、女性のグループ、子供連れの家族など数組見かける。
「このくらいの人数なら少人数でこなせるけど、食事時の時間だと息つく間もないんだ。料理が遅れたりすれば、お客様からクレームをつけられることもあるし、かなりハードだよ。覚悟してもらわないとね」
「はい!俺頑張ります。それともう1つお願いしてもいいですか?」
樹は広瀬に考えていたことを伝えようと切り出した。
「何だい?時給の値上げだったら受け付けないよ。前借りもね」
「そんなことじゃないんです。俺と真白の働く時間を同じにしてほしいんです」
「何だって!仲良しなのはいいことだが、仕事となると別だからなあ……それにシフトだって片寄るしな」
樹の頼みに、広瀬は渋い顔をする。
「お願いします。あいつ悪いやつに狙われてて守ってやらなきゃならないんです。便所掃除でもなんでもやりますから真白と一緒に仕事させて下さい」
広瀬が腕組みをして考えこんだあと口を開いた。
「分かった。真白君と同じ時間で働いてもらおう」
「本当ですか!?」
「あの子は小さな体でよくやってくれるが、訳ありだし心配だったんだよ。いつも顔色が悪くてね。確かにあの子は並みの女の子より可愛いから狙われやすいし、君がそばでガードしてあげるほうが安心だろうな」
「有り難うございます。俺、頑張ります」
これで真白のそばにいつでもいられる。
樹はやる気のスイッチが入っていた。
「その代わり、便所掃除でもどぶさらいでもやってもらうからね」
「えっ!……」
いたずらっぽく笑う広瀬店長は話の分かる人間らしい。
樹は安心感を覚えていた。
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