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「おいっ! どうした!? 大丈夫か?」
遠くで誰かに呼ばれた気がして瞼を開いた。
徐々に視界が明るくなり、見覚えのある少年の顔が目に入る。
「えっ!……あの……君は……ここはどこ? あっ痛っ……」
身体を起こそうとすると全身がずきずきと痛む。
「無理すんなよ。怪我してるんだから」
少年が肩に手をかけた。
周りを見渡すと見知らぬ部屋が視界に入る。
「気を失って、俺の家まで運んだんだよ。今、家には俺以外に誰もいないからゆっくり休んでろよ」
「君は……ええと?……前に同じクラスだったっけ?」
「髙坂樹だよ。名前覚えてなかったのか?……淋しいもんだな。一年間同じクラスだったのに」
「あっ……ごめん……クラスメートの名前あまり覚えてなくて……僕友達とかいなかったから……」
家族を失ったあの日から、誰とも馴染めず、人の名前すら覚える気力もなかったのだ。
起き上がろうとしたところを樹が手をかしソファーに座らせてくれた。
「ありがとう。あっ……僕は綾瀬……」
「真白だろ。お前にぴったりの名前だよな」
慌てて自己紹介をしようとする真白をさえぎって、樹が名前を口にした。
そのとき、真白の足下にふんわりとした白いものがすり寄ってきた。
「わあ! 可愛い!」
潤んだ瞳で豆柴が顔をのぞかせたのだ。
真白は犬の頭を優しく撫でる。
「こいつはミルク。ミルクみたいに白いから名前をつけたんだ。因みにこいつがお前のこと助けたんだぜ」
「えっ?……助けてくれたって?」
「廃工場の近くでこいつが急に吠えまくって引っ張られていったんだ。そしたら、お前があんなことになっててよ。こいつ賢いから何かあると教えてくれるんだ」
「そうだったんだ。ありがとう、ミルクちゃん。お利口なんだね」
真白はミルクを抱き寄せ体を撫でた。
「あっ……髙坂くんもありがとう。迷惑かけてごめんね」
樹にも礼を伝えた後、真白の心に闇がよぎった。
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