1 はじまりは突然に

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彼は名刺を受け取って、じっとそれを見つめながら 「桐島さん、もう帰ります?一応ここ夜中も出入りはカードでできるとは思いますけど、空調はきれるので」 「あっそうだったんですね。だいたい切りのいいところなので帰ります」 「それじゃあ、片付けて送って行きますね」 「あっ大丈夫ですよ。ほんとこの近所なので」 「えっこの近所?僕もこの近所で徒歩5分くらいのところです」 と言って、片付けて、電気も常夜灯だけにして、コワーキングスペーススペースからエレベーターで下まで降りる。 夜の0時とはいえ、金曜日の夜の駅前はまだ人通りがある。とはいえせっかくなので送ってもらうことにする。 「桐島さんは西方面?」 「ええ、そうです。ここの大通りを行って2つ目の角を曲がったところです」 「ああ、それならちょうどよかった。僕は方向は一緒で、もうちょっと行ったところです」 ふたりで並んで歩きながら、なんだか不思議な気分になる。そう、あの動画の人物がリアルにいて、歩いてて、しゃべってるのがなんだか信じられない気分になる。 何も言えずにそのまま歩いて、あっという間に自宅のマンションに到着する。 「ここなので、送っていただきありがとうございます」 「いえいえ、こちらこそ色々借りてありがとうございました。 あのーーお礼がしたいので後でメールで連絡してもいいですか? あっそれともメールよりメッセージアプリの方がいいですか?」 「ええーケーブルなんて大したことないのでいいですよー」 「いや、もう、ケーブル3本も借りた上に、モバイルバッテリーまでつけてもらって図々しいのもほどがあるって感じです。もうすごく助かったので。メッセージアプリの連絡先交換してもらっていいですか?」 と言われて、引くに引けなくなって、とりあえずまあという感じでアプリのIDの交換をする。 「それじゃあまた連絡します。おやすみなさい」 と丁寧に挨拶して、彼は帰っていった。
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