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Silver Moonの扉のまえで鬼崎は依然躊躇していた。いまさら、優紀に会ったところで会話が成立するとは思えない。鬼崎は首を横に振り、再び歩き出そうとした。
そのときだった。Silver Moonの扉が開き、ひとりの女性が顔を出した。セミロングのさらさらとした髪をほんの少しだけ染め、上下ともに黒いタイトなスーツでシックに装っている。
少し勝気な猫のような瞳、美しい鼻梁と少し大きな口。バランスのとれたスタイルと妖美な佇まい。間違いない、そこには美木多優紀が立っていた。
鬼崎は「あっ」と小さく叫ぶと咄嗟に顔を伏せた。その仕草が、優紀の関心をあおった。彼女は自分の店の前に突っ立っている若い男をまざまざと観察した。
鬼崎は、不自然に踵を返すとそこから立ち去ろうとした。その様子を見た優紀は
「いらっしゃい。どうぞお気軽にお入りください」と鬼崎を呼び止めた。
「あっ、いや……別に呑みにきたわけじゃあ……」
そっぽを向く鬼崎をよそに、優紀は鬼崎に近づいた。
「いいじゃないですかお客さん。今日は平日で多分、暇だし、ちょっとだけでもいいんで。ねっ、ねっ」
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