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「ああ、そうなんだ……」鬼崎はそっけなく笑った。
すると優紀は右手を口に当てクスクスと笑った。小さく肩を震わせながら笑う仕草は、まるで雪国の黒兎のように愛らしかった。
「ごめんなさい、お客さん。私、お客さんにそっくりな話し方をする人を知っていて……。私の幼馴染なんですけどね、いつもオドオド、ソワソワしてる子だったの」
鬼崎の背中は汗でびっしょりだった。
「ふふふふふ、本当にごめんなさい。なんだか私、とっても失礼なこと云ってるわね。ごめんなさい。忘れてください」
「ああ……別に気にしなくていいですよ。僕自身、その……なんというか、いつも自分がオドオドしているっていう自覚をもってるし……」
刹那、優紀の表情が一瞬硬直した。彼女は改めて鬼崎の表情をまざまざと観察した。
「あの……もし間違っていたら、ごめんなさい。お客さん、ご出身は秋田ですか?」
ついにきた! 鬼崎の心臓が飛び出しそうになる。
「……はあ、まあ……」
「男鹿のひと……?」
「……ええ……」
優紀は右手を口に当てたまま硬直している。猫のような瞳を大きく見開き、鬼崎の容貌に釘付けになっている。やがてふり絞るように「嘘でしょ……」と呟いた。
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