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鬼崎はともすれば、優紀に感づかれることを心の底では切望していたのかもしれない。彼は、ようやく優紀を見つめると「……うん」と微かに返答した。
優紀はまるで呼吸することを忘れているかのように固まっていた。やがて、「鬼崎のりゅうちゃん……なの?」と囁いた。
「あ……うん」
その返事を聞くまえに優紀はカウンターの中から飛び出してきた。
「嘘だー、りゅうちゃんなの!」と叫びながら彼女は鬼崎に抱き着いてきた。咄嗟のことに気が動転した鬼崎は激しく咳こんだ。
「……ああ、そうだよ……」
「嘘だー! 嘘だー! 絶対嘘だよ!」
「……嘘じゃないよ……」
「嘘だよー、本当に、本当にあのりゅうちゃんなの?」
動転しながらも、優紀は歓声を上げ、瞳に涙を潤ませていた。予想外の優紀の反応に鬼崎はたじろいだ。それでも鬼崎は抑えがたい喜びを感じ「そうだよ、龍昇だよ」と静かに連呼した。
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