プロローグ

1/2
前へ
/231ページ
次へ

プロローグ

「姉ちゃん、見て見て」  俺は姉の関心をひきたくて自分が発見した黄昏月(たそがれづき)を指さした。天空に映える青白い月は、その色彩のうえに黄昏色を反射し、壊れた万華鏡のように幽玄な輝きを宿していた。それは逢魔時(おうまがとき)の空に君臨する魔法の鏡のようだった。それは俺たちの町を希望色に染めあげ、一家を団欒(だんらん)のひとときへと誘う慰労のサインでもあった。  幼きころの俺は姉のことが大好きだった。美しく研ぎ澄まされた鋭利な智慧の持主――彼女は俺のヒロインであり、永遠(とわ)の憧れだった。 「……きれいな月ね。お母さんにも見せてあげたいね」  姉は相好を崩し、そう呟いた。
/231ページ

最初のコメントを投稿しよう!

241人が本棚に入れています
本棚に追加