241人が本棚に入れています
本棚に追加
「僕が呼んでこようか?」
「でもお母さんはいまお夕飯の準備でいそがしいわよ……」
「そっか……じゃあ、お父さんをよんでこようか?」
「あら、こんな時間にあの人が家にいるなんて珍しいじゃない?」
姉の黒髪から微かな芳香が漂う。俺はその香りにうっとりした。なんて素敵な姉さんなんだろう。
「……でもいいわ。あの人には、この月の美しさは分からないかもしれないから……」
姉は、しとやかに笑みを浮かべ、やがて遠くを見つめた。
「……そうかな。きっとお父さんも喜んでくれると思うけどな……」
姉は静かに「うふふふ」と笑うと俺のことを抱きしめた。
「しょうちゃんは優しいのね。姉ちゃんにもずっと優しくしてくれる?」
俺は「当たり前じゃん」と応えた。姉を一心に愛する俺の心をみくびらないでほしい。
……だが、いまにして思うことがある。俺はもっと姉のことを理解してあげるべきだった。いや、たとえそのとき俺が子供だったにしても、俺には、もっと特別な、なにかができたはずだ。
そして俺は、自分自身にまつわるモノガタリを綴ることを決心した。
頭上に輝く白い月に誓いをたて、俺は深いため息をついた。
最初のコメントを投稿しよう!