プロローグ

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「僕が呼んでこようか?」 「でもお母さんはいまお夕飯の準備でいそがしいわよ……」 「そっか……じゃあ、お父さんをよんでこようか?」 「あら、こんな時間にあの人が家にいるなんて珍しいじゃない?」  姉の黒髪から微かな芳香が漂う。俺はその香りにうっとりした。なんて素敵な姉さんなんだろう。 「……でもいいわ。あの人には、この月の美しさは分からないかもしれないから……」  姉は、しとやかに笑みを浮かべ、やがて遠くを見つめた。 「……そうかな。きっとお父さんも喜んでくれると思うけどな……」  姉は静かに「うふふふ」と笑うと俺のことを抱きしめた。 「しょうちゃんは優しいのね。姉ちゃんにもずっと優しくしてくれる?」 俺は「当たり前じゃん」と応えた。姉を一心に愛する俺の心をみくびらないでほしい。  ……だが、いまにして思うことがある。俺はもっと姉のことを理解してあげるべきだった。いや、たとえそのとき俺が子供だったにしても、俺には、もっと特別な、なにかができたはずだ。  そして俺は、自分自身にまつわるモノガタリを綴ることを決心した。  頭上に輝く白い月に誓いをたて、俺は深いため息をついた。
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