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「……ああ、そうそう、その件です。私、以前からとっても不思議でたまらなくて……。……えっと、はい。その理由が知りたいのです」
診察室にある安っぽいグレーのソファに身を沈めた女が不安げに話す。
ウェーブのかかった長い髪は、微かにブラウンに染まり、彼女の相貌を引き立てている。額にかかる前髪は綺麗に切り揃えられており、魅惑的であると同時に、すこぶる上品だった。
細く美しい眉の下には切れ長の流線型の双眸が輝き、まっすぐに俺を見据えていた。小さいながらも蠱惑的な唇はピンクのルージュによって聖化され、美しい稜線を描く鼻筋と絶妙なバランスを保っている。
女の名前は神前紗夜、今夜の俺のクライアントだ。
「……で、神前さん、その少女にはまったく見覚えがないのですね?」
俺はできる限り誠実そうな表情をとりつくろって、自分が信頼に足る人物であることを彼女に訴求した。
「……はい。まったく見覚えがないのです。少なくとも私の記憶のなかには彼女に関するデータはありません。……でもなんだか、とっても寂しそうで。……そして……なぜか……とても気になるのです。そうですね…彼女の瞳をチラリとでも見ようものなら、彼女の深い悲しみに引きずり込まれそうになります。ちょっと……というか、はい、かなり危険な瞳をもった少女なのです……」
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