第2話 長い商店街

2/61
前へ
/231ページ
次へ
 夕暮れの赤い太陽の光線が皮膚に突き刺さる。けだるい晩夏の午後6時、周囲には焦燥と倦怠の重苦しい空気が充満していた。  鬼崎龍昇(きざきりゅうしょう)は鉛のような脚をひきずりながら、新宿の街はずれをとぼとぼと歩いていた。 「……今日も一日、俺は無力だった」  胡乱のまま、ひとり呟く鬼崎は自らを嘲笑するかのように口許を緩めた。汗まみれの白いTシャツが皮膚にはりつく。首筋を流れる汗に不快感が募る。涼を求めようにも、人が大勢いるところは避けたい。鬼崎は少し背中を丸めながら、人気のない方を目指して、緩慢に歩を進めていた。  卒然とした不安が持ち上がっては、沈んでいく。葛藤と憔悴、そうかと思えば混乱と激情、思えばこの数か月というもの、鬼崎は危機的な状態にあった。  ――発端は、彼の恋人、漆原智美(うるしばらさとみ)だった。  突然、彼女が別れを告げてきたとき、鬼崎は吃驚(きっきょう)し、天を仰いだ。痙攣する四肢の震えが止まらない。彼は震撼し、しばし思考が停止した。 「……頼む、さとみ、僕の世界が崩壊してしまう。さとみ、さとみ……君なしでは……君なしでは……僕はこの世から消滅してしまう……」  新しい男と出会い、二週間前にベッドを共にしたわ、と嘲る智美が鬼崎を睥睨(へいげい)し、断絶の視線を投げかけた。
/231ページ

最初のコメントを投稿しよう!

240人が本棚に入れています
本棚に追加