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鬼崎の視界に一軒の古書店が目に入った。軒先にワゴンに入った文庫本が雑然と並んでいる。幼いころから本が大好きだった鬼崎は、まるでなにかに吸い寄せられるかのように古書店の入り口へと誘われた。
ガラス戸の向こうに薄暗い店内が垣間見える。両側の壁と中央に高い書架が見える。店主の姿は見えなかった。奥に広い店内は、どこかしらどんよりしていた。
鬼崎は勇気を振り絞ってガラス戸に手をかけた。少し重いガラス戸を右側にスライドし、店内に一歩踏み込む。
やはり、店主の姿は見えなかった。鬼崎は恐る恐る高い書架に視線を投げかけた。
「……すごい」彼は感嘆した。
そこには鬼崎が学生時代よりのめり込んでいた神秘学の希少本がずらりと並んでいた。すでに絶版となって久しい書物が、なんの造作もなく並んでいる。洋の東西を問わず、贅沢に揃えられた古書群を見上げた鬼崎は言葉を失った。
少し奥にいくと今度は彼が耽溺していた昭和の推理作家の名作が目白押しだった。
「……なんだこれ……すごすぎるよ」
インターネットのオークションで高額取引されている有名作家の初版本から、マニアのみがその名を知る隠れた名作まで、鬼崎が知り得るあらゆる珍品が勢ぞろいしていた。
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