第2話 長い商店街

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 鬼崎はしばらくのあいだ必死になって本の背表紙を眺めていた。書架の右端から左に向かって視線を移動させる。  どんよりと曇った鬼崎の脳内が、次第に興奮していく。彼は無我夢中で、書架に収められた一冊一冊を確認していった。 「……へえー、あんたえらく興奮してるみたいだね」店の奥から声が響いた。    仰天した鬼崎が振り向く。 「えっ……あ……ああ……あああ」    咄嗟のことに声がでない。と同時に鬼崎の全身が硬直し、呼吸が止まった。 「ああ……あああ……」言葉にならない呻き声が口から漏れた。  鬼崎が驚いたのも無理はない。そこには先日、別れたばかりのかつての恋人、漆原智美(うるしばらさとみ)が立っていた。 「はははははは、なんだよ、その引きつった顔は。驚いたのかい?」  鬼崎はようやく言葉を絞り出した。 「な、なぜ、さとみが……ここに?」  智美はブラウンの長い髪をかき上げると鬼崎をねめつけた。切れ長の一重瞼、バランスのとれた鼻筋、そして薄く蠱惑的な唇。典型的な日本美人だ。 「ふん、それはこっちのセリフだよ。まさか、私のバイト先までやってくるとはね。まったく女々しいにもほどがあるよ」
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