241人が本棚に入れています
本棚に追加
鬼崎はしばらくのあいだ必死になって本の背表紙を眺めていた。書架の右端から左に向かって視線を移動させる。
どんよりと曇った鬼崎の脳内が、次第に興奮していく。彼は無我夢中で、書架に収められた一冊一冊を確認していった。
「……へえー、あんたえらく興奮してるみたいだね」店の奥から声が響いた。
仰天した鬼崎が振り向く。
「えっ……あ……ああ……あああ」
咄嗟のことに声がでない。と同時に鬼崎の全身が硬直し、呼吸が止まった。
「ああ……あああ……」言葉にならない呻き声が口から漏れた。
鬼崎が驚いたのも無理はない。そこには先日、別れたばかりのかつての恋人、漆原智美が立っていた。
「はははははは、なんだよ、その引きつった顔は。驚いたのかい?」
鬼崎はようやく言葉を絞り出した。
「な、なぜ、さとみが……ここに?」
智美はブラウンの長い髪をかき上げると鬼崎をねめつけた。切れ長の一重瞼、バランスのとれた鼻筋、そして薄く蠱惑的な唇。典型的な日本美人だ。
「ふん、それはこっちのセリフだよ。まさか、私のバイト先までやってくるとはね。まったく女々しいにもほどがあるよ」
最初のコメントを投稿しよう!