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「な、なにを。……俺は、俺はただ偶然、この商店街にたどり着いてしまっただけで……。別にさとみのことを追いかけていたわけじゃないよ……」
智美の眼光が鬼崎を射すくめる。
「どうだかね……。ふーん、まあいいや。本を選んだら、さっさと帰ってよ。あんたがいると辛気臭くなっちゃうよ」
智美はフンと鼻を鳴らすと踵を返した。鬼崎は「あっ」と小さな声を漏らした。
しかし、次の瞬間、智美は鬼崎を振り返り、ニンマリと嗤った。
「ああ、そうそう、これをあんたに渡さなきゃ」
そう云うと智美はトランプほどの大きさの黒いカードを鬼崎に差し出した。
「え、……なんだよ……これ?」
動揺する鬼崎をよそに智美が呟いた。
「あんたと一緒にいて楽しいときがなかったわけじゃないわ。……そうね、確かに一時はあんたのことが、とても好きだったわ。でも、いつも煮え切らないあんたに愛想が尽きたのよ。……ふふふふふ、もう終わったことだけど……一言だけお礼を言っておくわ。龍昇、いままでありがとう……」
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