第2話 長い商店街

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 鬼崎は明らかに動揺していた。足早に進みながら自動販売機を探した。やけに喉が渇いていた。彼は道の端にある自動販売機を見つけるとポケットをまさぐり、小銭を探した。  震える手でコインを投入し、冷たいコーヒーのボタンを押した。 「…………ふう」  冷たいコーヒーを流し込み、深呼吸をした。額に汗が伝う。暑い、とても蒸し暑い。もう日は暮れたようだが、周囲には、まだ重苦しい空気が停滞していた。  鬼崎は缶コーヒーを片手にしばらく茫然としていた。改めて、いま自分がどこにいるのかを考えた。着の身着のままに飛び出してきた。軽い散歩のつもりだった。いや、厳密に云うと、ほぼ無意識に始まった徘徊に過ぎなかった。    コーヒーを飲み干すと、鬼崎は再び歩きだした。アーケードはまだまだ先まで続いている。目を凝らしてみても商店街の端が見えない。地元に密着した古い商店街は、まるで龍の寝床のように、どこまでも続いていた。
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