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歩きながら、道が少しずつ勾配を帯びてきたことに気づいた。そう、商店街は途中から、なだらかな上り坂になっていた。鬼崎は前方を見据えながら、勾配の角度をなんとなく計算してみた。どうやら、先に行けば行くほど勾配はきつくなるようだった。
「引き返そうか……」鬼崎は独り言ちた。
いや、いい。いまさら引き返すのなんて面白くない。こうなったら、とことん先に進んで商店街の切れ目を見てやろう。鬼崎は心の中でそう呟くと、そのまま歩き続けた。
しばらく進んだクリーニング店の前で鬼崎は、はたと足を止めた。どこにでもあるクリーニング店だった。ガラス張りの向こう側にある店内カウンター、そこにひとりの男が両ひじをついて立っていた。
「……あ、あれは……」
鬼崎はおもむろにクリーニング店に近づいた。そしてガラスの向こう側にいる男をつぶさに観察した。痩せぎすで鷲鼻の男、無精ひげを生やし、特徴のある奥目の若い男だった。
「神林……か?」鬼崎は静かに呟いた。
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